2.乙女の復活

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***  乙女は何者にも心を開かなかった。  リベリオを除いては。  彼女の世話係は引き続きリベリオに命じられた。本来であれば同性の者が望ましいのであろうが、生憎教会には既に女性の奉仕者がいなかったのである。巡礼者に委ねるわけにもいかず、一先ずの対処として彼が継続的に選ばれた。  リベリオは戸惑った。  まだ短い人生の中で、彼は名も知らぬ母以外の異性に触れたことがなかったのだ。  初めて間近で見る若い娘の肌は、同じ生物とは思えないほどきめ細やかで、肉体に関する何もかもがリベリオよりも小さかった。大きいと感じたのは、あの深い青の瞳だけである。  けれど、当然ながら、乙女の方が戸惑いは大きかった。  彼女の足は萎えていた。自力で棺を跨いで出たものの、ガクンと崩れて膝をついてしまう。クリプトから連れ出すために、リベリオがほとんど抱えてやらなければならなかったが、その間、彼女は終始怯えた様子を見せていた。  リベリオは非常に献身的だった。  乙女が彼に心を開いたのはそのためだろうか。いや、どうやらそうではない。  ある時、彼女は彼の手を取って言ったのだ。 「……この手」  慈しむように甲を撫でる。節が目立ち、筋の上を蒼い血管がミミズのようにのたくるリベリオの手。それに比べたら、マリアの指はなんと華奢で可憐なことだろう。それなのに、彼女は小さな手で精一杯、彼の手を包むのだ。 「朧げな眠りの中で、何度もこの手を夢に見ました。あれは、リベリオさまだったのですね」  そして、彼女はその手を頬に当てがった。  ぞくりとした。  心臓が跳ね上がり、何か目覚めてはいけない邪竜のようなものが、体の奥底で身動ぎするのを感じた。  その日からだ。  乙女が言葉を話すようになったのは。  その日からだ。  リベリオの頭から、マリアのことが離れなくなってしまったのは。
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