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さらに数日が経ち。
いよいよ教皇が訪れる日が明日へと迫った晩、マリアはリベリオを地下礼拝堂に誘った。
「ここを訪れるのは久しぶりです」
リベリオは仄かに嬉しそうに言う。対して、マリアの顔は沈んでいた。
硝子の棺は以前のままに、蓋を外して放置されている。明日の正午、彼女はこの棺の前で教皇に謁見するのだ。まるで復活の時を再現するようにして。
「リベリオさま。わたくしはあなたに謝らなければならないことがあるのです」
「私もです、マリア」
彼はマリアを遮るように口を開いたが、それをマリアが逆に阻んだ。細い指先を彼の唇に当てて。
「どうか、お願いです。わたくしから先に打ち明けさせて」
彼女の切羽詰まった様子に、艶めかしさと喘ぐような息苦しさを覚え。
リベリオは黙って頷くしかなかった。
「リベリオさま、あなたは毎晩必ず献花を引き上げてくださいましたね。そして、毎朝必ずまだ元気な花だけを戻してくださった」
「まさか。マリア、あなたは覚えているのですか?」
マリアは棺の縁に腰掛け、薄っすらと微笑んでリベリオを見上げた。
そのなんと寂しそうなことか。
リベリオは、彼女が初めて外へ出た時に見せた寂寥を思い出していた。
「わたくしはあなたに――皆さまにずっと嘘を吐いておりました。わたくしは一度も死んだことなどなかったのです」
「それは……ずっとあなたは眠りに就いていただけだということですか?」
「いいえ。そもそもわたくしは、生きていたことがないのです」
怪訝な顔をする彼にマリアは微笑み、そっと手を差し伸べて隣に招く。それを受けて彼はぎこちなく腰掛ける。細い腕が彼の頭を胸元へと抱き寄せた。
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