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愛って欲望の葛藤だよね。
キミは生まれたばかりの太陽を眺めながら、僕と指を絡める。
僕の欲望はキミに受け入れられたのだろうか。
キミは――からだをビーチタオルで包んでほしいと思っているだろうか。
キミは――からだから衣服を奪われ貪られたいと思っているだろうか。
キミは――からだに僕の侵入を受け入れたいと思っているだろうか。
そして――そこにキミの幸せはあるだろうか。
包まれたいな、と彼女は言った。
僕らの視線が絡む。キミの目が朝日にキラキラ輝いている。
タオルじゃなくて僕のからだに包まれたい、と頬を染めた。
それくらいあなたのことが好きよ。でもね、それはあなたと私がもっと愛情と責任感と信頼感を持てるようになってからの話よ。まだ高校生じゃない? からだが成熟した分だけ――性欲が強くなった分だけ――自分が大人になったと勘違いしてるのよ。私たち、もっと知識とか勇気とか責任感とか持たないといけないし、みんなに認められ信頼される実績みたいなものも持たないといけないと思うの。それまで我慢しなくちゃ。
キミの言葉はなかなかシビアだった。だってそれって、僕が今君にしたいことのすべてを否定するものじゃないか。
僕の一瞬の絶望をキミは見事に感じ取ったね。震える唇でキミはこう言ったんだ。
キスだけなら…。
小鳥のようなキスをして、もう一度ちょっといやらしい感じで唇を押しつけて、三回目で――僕は決壊した。
ふたりとも全身ずぶ濡れになった。
濡れ羽色の髪の毛が額にこびりついていた。
シャツにもショートパンツにも砂がこびりついていた。
もう……、ずり上がっちゃったじゃない……。
キミはまとわりつくシャツの下に手を入れ、下着の位置を直した。
早朝のマラソンの夫婦が僕らを振り返って呆れていた。
ごめん。
せっかくキスを許してもらったのに、キミをこんなに惨めな恰好にしてしまって。
その時、僕は悟らなければいけなかったんだ。「愛」はともすると「蹂躙」への傾きを持った、極めて厄介なものなのだと。そしてそれゆえに、賢明な女の子は愛に躊躇するのだということを。
そんなことがあってから、夏休み中の僕らのデートはどこかぎこちなさがつきまとっていた。
キスをするという、彼女が僕らの「愛」のクオリティーを高めるために下した判断は尊いものだったと思っている。それを肉欲にまみれた行為で穢してしまったのは僕だ。情けない男だと自分に愛想を尽かした。
でも、それほどまでに熱い沸騰をからだの中に抱えている僕の苦悩を、賢明な彼女は読み取ってくれた。僕らの関係が続いているのはひとえに彼女の賢明さのお陰だ。
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