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4.はじめて
なんだ、ラブホ入るなんてチョロいもんじゃないか。部屋に入るまで人に会わずにすんだ。これなら中学生カップルだって入ってこれるよな。
でも、スリル満点だったね。――春香は、まるで映画館から出て来たばかりでまだ感動が冷めやらぬといった表情で言った。
シャワーしているところ覗かないで!
そんなこと言ったって、ガラス張りの浴室からどうやって目を背けろというのだ。ベッドにいたら自然と目に入ってきてしまう位置にあるじゃないか。いや、浴室自体が劇場の舞台になるように設計されている。
もっと暗くしてよ。恥ずかしいから……。
いや、オレだって初めてなんだ。せめてホールの位置ぐらいは見えるようにしてほしいんだけど。
ふたりは互いに我儘をぶつけあったけど、シャワーは一緒に浴びたし、間接照明をつけたままにした。なし崩し的に僕の願いが通ったかたちだ。
抱き合う前は、それぞれが個の立場から要望を突き付ける。聞き入れてもらえば相手のいたわりと愛を感じる。
だが、ひとたび絡み合えば個はなくなる。我儘もない。ひたすら快楽に向かって奉仕し合い、貪り合うのみだ。
春香のからだは――感動そのものだった。
まず色。――白とピンクと黒。
白。――それは一点のシミもないまっ白な肌。「処女雪」という言葉が脳裏をかすめた。誰も足を踏み入れたことのない真っ白で、滑らかな起伏に富んだ雪原。そこに最初に足を踏み入れるのが自分であると思うと、感動も一入だった。できれば人工的な照明ではなく、自然の光の下で鑑賞したかった。
ピンク。――春香の乳輪は周りの肌の色とほとんど変わらないほど淡い。面積も狭い。そこに薄いピンク色の乳首が恥ずかしそうに顔を出している。まだ完全に成長しきれていないそれは半分丘の下に隠れている。それが何とも言えずかわいい。春先のつくしんぼ。生まれたばかりの赤ちゃんのようでもある。
黒。――いや、黒というより茶色に近いのかもしれない。足の付け根の三角地帯に生えた一塊の叢。いや、叢というにはあまりにもおこがましい。なぜなら繊毛は割れ目の上に数えられるくらいにしか生えていないのだから。息を吹きかけるとそよぐ。しゃぶるとカラスの濡れ羽色。なまめかしい。
僕は女体にむしゃぶりついた。
あっ! ちょっと……、そんなにがっつかないで。ああっ、痛いよ! もっと優しく! んん……、あっ、そんなところ……。
女の子のからだがこんなに柔らかいものだと想像したことすらなかった。指を這わせればすべすべだった。揉めば手のひらが肌に吸い付いた。適度の柔らかさと適度の弾力を持った乳房に僕はうっとりとしてしまった。女体の柔らかさを貪れば貪るほど、僕は固く大きくなっていった。
相手の大切なところを視覚と触覚で確認した僕は得意になっていた。
愛なんだ! これが愛なんだ!
からだの奥底からは熱いものがぐらぐらを湧き上がってくる。春香に優しくしたい思いと、それとは真逆の荒々しい思いがせめぎ合い、僕の体内は欲望の戦場と化していた。
そう、それはあまりにも燃えすぎていたためだった。
彼女のからだを開き、淡い叢の下でひっそり息づく栗色の花びらを目にしたとき、僕は興奮のあまり、あっけなく精を放出してしまったのだ。
消防車から噴射するような勢いに、自分自身がたじろいでしまった。
しぶきが彼女の鼻の頭まで飛んだ。
これが精子なんだ? うえっ……、べとべとだね……。
春香はティッシュを引き抜き顔と首に飛び散った液体を拭いた。その顔はまるで汚物に触れるように歪んでいた。春香はどんな表情をしてもかわいいのだが、今のそれはどこか憎々し気だ。
小さな幻滅をした瞬間だった。
白濁液が春香の臍の窪みにたまっている。拭き取ろうとすると、液が窪みからあふれ、セクシーに縊れた脇腹を伝い、糸を引きつつシーツに落ちた。
裸体にバスタオルを巻いた彼女が浴室へ急ぐ。
その慌てように、僕はもう一つ小さな幻滅を重ねた。
僕は、彼女のシャワーシーンを見たかったが、一瞬の気のゆるみでベッドにあおむけになったとき、そのまま睡魔に意識を持っていかれた。
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