止まない雨、止まらない猟奇

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依頼者の困惑 桜木正樹は困惑していた そして頭の中は混乱の最中にあったと… それは当たり前であった 普通の感覚の持ち主なら… *** 「…辻合先生、郡氷子のこと、調べたんです。ヤバイですよ、あの女…」 桜木はリサーチ機関で氷子の尋常ない素性を知り得た その結果、氷子が現在抱えている裁判は18件だと判明…! だが… 「…桜木さん、難しいことは考えなくていいでしょ。法に則って対処…。”これ”でいけば、別にああだこうだなしでコトはおのずと決する」 「普通じゃないんですよ、こっちの相手は!ロックスを殺した動機だってわかりゃあしない。気まぐれか、他に何か目論見があったのか…。少なくとも偶然じゃない!」 「…」 *** 郡氷子は、土手でフルーツの皮をむいていると、その臭いにコーフンして、自分と同じくらいの大型犬が襲ってきて… で、咄嗟に手にしていたナイフ(実際は果物ナイフではなく、登山ナイフ!)を恐怖のあまり振り回したら、犬をぶっ刺していたと! 結果、ロックスという、近所の住人・桜木正樹が飼っていた愛犬は出血死したが… これ、不可抗力、正当防衛に付き、私は被害者よ! …という主張だった *** それどころか、氷子は、夕刻の散歩やジョギングでにぎわう公共の場たる河川敷にあんな大型犬を首輪から放すなど、社会生活を脅かす危険極まる行為であると返す刀で反論、飼い主の桜木をペット飼育の観点上から重大な過失ありと突き付けたのだ 桜木の弁護人(ちなみに脳天は逆モヒカン型のつるっぱげ)であるベテラン弁護士の辻合は、当初、被告郡氷子の銃刀法違反での刑事事件告訴で有罪を勝ち取り、そののちに民事ではロックスを刺殺した謝罪を取り付け、示談に持ち込む短期畳みかけの戦略を描いていた しかし…、であった! 本件原告であり依頼人の桜木正樹が、被告である若いオンナ、郡氷子が”悪意”に基づく計画的犯行という強い確信を得てしまったことで、弁護人の辻合に方針転換を迫っていたのだ つまり本件被告は、その当該行為において何らかの動機があり、桜木の愛犬を確信的に”殺害”したという推論を桜木は強く訴えていたのだ それは怯えるように そう…、桜木正樹は明らかに、訴訟相手たる郡氷子のに怖れを抱いていた 正確には、彼女の恐るべき凶暴性を宿した本性に… *** ”確かに桜木さんの論拠はもっともかもしれない…” 弁護士の辻合は、、被告・郡氷子の実妹が通うY中学で同級生の男子生徒・桜木ケンは、腹違いではあったが、まさに桜木正樹の弟であったという、桜木の事実論拠を堅実に受けとめるざるを得なかった しかも、半年前には桜木ケンが郡氷子の妹、ツグミへ性的嫌がらせもしくは淫らな行為を迫ったか行ったかのウワサ乃至は疑念が学校レベルで持ちあがった過去があったのだ さらに! 桜木の内定リサーチ会社による調査報告で明らかになった、郡氷子の現在抱えている裁判の数が18事件と言う信じがたい”事実”は、辻合にとって衝撃であった であれば! ベテラン弁護士の辻合においては、その延長での絵柄となれば言うまでもなかった ”原告の女は裁判に勝訴することを必ずしも望んでいない、イレギュラーかもしれん。…郡氷子の目的はそれ以外の何かなのであれば、下手すると本件依頼人の私にも火の粉がかかるやもしれん。ここは、妹の中学生に会って、姉の実情を探った方がいいか…” …であった こうした過程を経て、辻合は氷ツグミに接触を図ったのだった
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