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「ねぇ、みのり。好きな人できたんだ」
「またか」と思い亜沙美を見つめると、彼女はいつものように大きなぱっちりとした瞳で私を見つめ返した。
ここは八代第一高校、3年2組の教室、ただいまランチタイム中だ。
そこまで偏差値が高くもなく、かといって低くもない高校なだけあり、教室の中は進学に向けて勉強に励む者もいれば、ただひたすらに就職面接の話をしている者もいる。
そしてもう進路がだいたい決まっている者は馬鹿みたいな明るい会話を繰り広げていた。
その人達が盛り上がる度に勉強している者達の顔は引き攣る。
クラスが分裂しているようで苦しい。
文化祭はあれだけ仲良く盛り上がったのに。
けれど、私はどちらかというと引き攣る方に入るのかもしれない。まだ進路が決まっていないからだ。
目の前の我が友は違う。卒業後は実家の和菓子屋を手伝うことが決まっている。
煩わしい自分の人生について考えることを放棄できて羨ましい。
羨ましいことは他にもある。亜紗美は美人だった。高校生になると当然のように異性の目が気になる、そして男子は当然のように亜紗美に優しく、やたらと話しかけにくる。
時には私なんか存在しないかのような扱いを受ける、自分は亜紗美と同じ人間なのに、
けれど亜紗美は大切な友人だ、好きな所は沢山ある。それと同時に少しだけ妬ましくもある。
亜紗美の話に何にも返さずに、食べ終わったお弁当箱を袋の中に片付けていると、痺れを切らした亜紗美が話を続けた。
「今度は大学生とかじゃなくて、同じクラスにしたの。背伸びしないで、等身大の私を受け入れてくれそう」
恋愛欠乏恐怖症の亜紗美は、出会った高校一年生の4月から常に恋愛をしている。そして今回は大学生の彼との運命の大失恋の三日後、次の獲物を簡単に発見した。
「次は誰なの?」
本当は興味なんて全くなかったけれど、そう言わないと亜沙美がすねるから聞いた。
「拓にしようかなって」
教室の角で一人で弁当を駆け込んでいる拓の方を見た。
拓は柔道一筋の今時古風な男子だ。
高校一年生の時に同じ図書委員会をしそれ以来少しだけ他の男子よりも親しい。たまに世間話をするけれど、テレビは殆ど見ていないし、おしゃれに興味がある風でもない。
亜沙美が拓に目をつけるなんて意外だ。
「意外でしょ?拓って練習してる時は超真剣で、マッチョなの。もう女遊びするようなチャラ男は懲りたからさ、真面目な恋愛がしたいの」
るんるん気分の亜沙美を見ながら、一つも恋愛をしていない自分自身が少し虚しくなる。
決して恋愛したくないわけではない、興味はあるんだけど、亜紗美みたいに可愛いわけでもない地味な私はそのチャンスがなかなか巡ってこない。
「真面目な恋愛か‥‥」
口に出して呟いて見たけれど、恋愛に真面目も不真面目もあるのかさえわからない。自分とは関係のない世界の事に思えて仕方がない。
恋愛したい、彼氏が欲しい、誰よりもそう願っているのに、自分はこのまま誰とも恋愛せずに生きていくのかもしれない。
亜紗美の話に適当に相槌を打っていた。
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