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トイレに行き、鏡をチェックする。
目も充血してないし、瞼だって腫れていない。
何故だか急に数本の髪の毛の乱れが気になり、水で濡らし強制的に言うことを聞かせた。
「よしっ!」
自分に気合を入れ、トイレから教室に向かって歩き出す。
教室には拓がいるんだから
そう自分に言い聞かせ、平常心を保つ努力をする。
教室のドアを勢いよく開けると、そこは何の事はない、賑やかな朝の時間だった。
皆、それぞれにそれぞれの好きな事をしている。勉強している子や、携帯を触っている子、朝ごはんを食べている子や、おしゃべりで盛り上がる子達。
ふと、違和感を覚えて視線を元に戻すと、拓が楽しそうに笑っている。小百合ちゃん達のグループが拓を取り囲んで、何やらとても盛り上がっている。
「俺は、最後一本とって優勝したからさ」
「わぁ、すごーい!!拓って実はすごいんだね」
「実はって何だよ、失礼だな」
楽しそうな笑い声が起きた。
「拓って腕の筋肉凄くない?」
「ちょっと触らせてよ」
小百合ちゃんが甘えた声を出した。
「わぁ、すごーい!かたーい!」
女の子達の歓声が聞こえる。私は怖くてその現場を見ることができず、ただ黒板の日付を見ている。
12月5日(月)という文字が何故だか巨大化して襲ってきそうなくらい怖い。
思わせぶりなことしないでよ、拓のバーカ。
あの子達ともあんなに楽しそうに話すんじゃん。
拓にまんまと嵌められような気分。
勘違いしちゃったじゃん。
本当に拓のバーカ。
「何なのよ、あれは?!」
突然の声に驚いて、後ろを振り向くと亜紗美がいた。チェックのマフラーの両端をギュッと握っている。
「小百合達も拓狙いなわけ?この前、今度は拓狙いって言っておいた筈なのに、私が先に好きって言ったのに、ありえないんだけど」
亜紗美は口を尖らせた。
ありえないよね、友達が好きって宣言した人を好きになるなんて。本当にありえない。
来週はまた模試がある、しっかり勉強しないと。
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