運命の別れ道

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高校三年生はどうしてこんなに不安なのだろう。 就職する人、進学する人、何にも考えてない人。 ここは地方都市の隣の隣の町だから、たいていの人間がこの何もない町を出る。 だからなのか、いやちがう。 とにかく苦しい。 特に二学期が終わりを告げようとしている今の時期、それぞれの得体の知れない不安はピークに達していて、それぞれが少しずつ変わっていく。 亜紗美はあれ以来拓の一挙手一投足を話題に上げている。 「拓のお弁当には毎日卵焼きが入ってるから、私も今家で練習してるんだ」 目の前にいる亜紗美は、恋愛以外何にも考えてない人と思いきや、もう和菓子職人の修行を開始している。 恋愛欠乏恐怖症だけども、芯はしっかりしてる。そういう所が彼女の魅力だ。 大学進学者用の補習を受けに学校に行く土曜日の早朝、自転車で亜沙美の家の前を通りかかると、懸命に働く亜沙美が見えた。 息を大きく吐くと白く凍る。 ふと自分が取り残されている不安に襲われる。 何の目標も夢もない私はどこに行こうとしているのだろう。 取り敢えず進路希望を大学進学にしているものの、自分でも本当に大学に行きたいのか、何を勉強したいのかわからない。 私のやりたいことは何なのだろう、夢って何なのだろう。 学校は静まり返っていた。普段はうるさいくらい人の声が聞こえるのに、今日は誰かのひそひそ話が容易く聞こえそうな位静かだ。 いつもはうるさい就職や専門学校が決まっている人達がいないから当然なのかもしれない。 そしてあの人達が居ないと物足りないのもまた事実だ。 駐輪場に自転車を止めに行くと、隣にある武道場から威勢の良い声が聞こえた。 ちょうど目線の高さにある窓からそっと中の様子を覗くと、拓が一人で巨大な藁の束を相手に懸命に技をかけているのが見えた。 藁であることを感じさせない、真剣な眼差し。 武道場全体に響き渡る大声 拓の気迫に圧倒され、しばらくその場を動くことができなかった。
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