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模試の成績が返ってきた。東京の志望校は相変わらずE判定のままだ。合格することは絶望的に難しい。
地元の私立大学はB判定、国立大はD判定だった。
どれだけ勉強しようがそう簡単に成績は変わらない。
私がこれから生きていく世の中の入り口である受験は当然のように努力をした分だけ報われる優しい世界ではない。
元々、そこまで勉強もできる訳ではない。だから余計に何の為に大学を目指しているのかわからない。
何の取り柄もない自分が恨めしい。
それでも学校には通う。特に嫌なことがある訳でも、いいことがあるわけではないけれど、ここしか自分の行き場がない。
校内放送のない月曜日のランチタイム、周りの喧騒に紛れて拓のことを考えていた。
確かにオシャレには興味はないけれど、高い身長、鍛え上げられた体、割と整った顔立ち、意外と女からモテる要素は揃っているのかもしれない。
一緒にご飯を食べていた亜紗美が暫く拓の広い背中をうっとりと眺めていたかと思うと、野菜ジュースを一口飲み、キラキラした瞳で言った。
「ねぇ、拓の好きなタイプの女の子ってどんな感じの子かな?」
「えっ、どうかな。想像つかないね」
自分の心の中を見透かされてような気がして動揺している自分がいる。
クラスの男子達は気が付けば女の話をしているけれど、拓が女の話なんかしてるのなんて見たことない。
だから全くもって想像がつかない。
「ねぇ、みのり。少し仲いいでしょ?お願い!」
亜紗美は両手を合わせて私を拝んだ。友達の為だから、別にいいっちゃいいんだけどさ。
心の中に沸き起こった違和感をみないフリして首をゆっくりと振り下ろすと、亜紗美は私に抱きついた。
亜紗美の大きな胸と折れそうな細い肩にドキドキする、これぞ女子なのだ。
今まで亜紗美を抱きしめてきただろう男の子の気持ちがよくわかった。
私には亜紗美のような女を強調する要素が少ない。生まれつきのものだから、いくら妬んでも仕方がないことは理解している。
けれど、神様は不公平だ。
もし亜紗美みたいに産まれていたら、どんなに楽しい高校生活を送れたのだろうか。
大きなため息をつき、私のしっかりした肩をグルグルと回すと、拓の方に向き直った。
拓は教室の後ろの席で、一人で弁当を食べている。拓は友達はいない訳ではなく、必要以上に群れないのだ。
他の男子だったら話しかけるのに躊躇するけれど、相手は拓だから、何とかなるだろう。
とても簡単な任務、そう相手を見くびっていたのだ。
馬鹿でかいお弁当箱を食べていた拓は、いきなり視界に現れた私に驚き、喉にご飯を詰まらせ、むせた。
取り敢えず拓の背中をさすってあげたら、三回目で落ち着いたらしい。
「ねぇ、拓。拓の好きなタイプってどんな女の子?」
早速本題を切り出す私を怪訝そうに見つめる。
「何だよ」
「いいから、教えてよ。ほら、芸能人で誰が好きとかさ」
拓は手首をポキポキ鳴らしながら、考えていた。
柔道一筋で、好きな女の子なんて考えたことがないのかもしれない。
拓の困り度合いを見ていて、そう思った。
「俺は、しっかりしていて真面目な奴が好きだ」
拓が何の面白みもない事を言い出した。
「顔のタイプは?お嬢様系?ギャル系?」
「……地味な顔がいい」
拓は一言そう言うと弁当を駆け込む作業にまた、戻ってしまった。
拓の想定外な返答に胸が高鳴った。
亜紗美のように派手な綺麗な顔ではなく、何の取り柄もない地味な顔が好きだと言ってくれる人がいることが嬉しい。
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