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一部始終を見ていた賢哉が、ともちゃんに話しかける。
「あのさぁ、ずっと気になっていたんだけど、何で朋渚は神冷先輩にタメ口なわけ? 言い方も偉そうだし、俺はちょっとビビってるんだけど」
突然の問いに、ともちゃんはしまったという顔で冬華に助けを求めた。だが、冬華もどうフォローすればいいか分からず黙り込んでいる。
「え? ええと。そうそう実は親戚だったんだ。あの人はおじいちゃんの、兄弟の、何だっけ、とにかく遠い親戚だったんだよ」
ともちゃんが何とか言い繕うと、賢哉は「へぇ、そうだったんだ」とあっさり納得した。
「それよりさ、そろそろ私達はここから離れよう。一緒に家へ帰ろうよ。ほら、家族がどうなっているか心配だし、ね、帰ろう?」
ともちゃんは賢哉の手を取り歩こうとした。
今の賢哉はただの高校生だ。木曽義高ではないし、死体を見慣れているわけではない。一方の鷲や御堂には前世の記憶がある。前世の彼らにとって、人が殺し合う光景は日常茶飯事だっただろう。この戦いで、彼らの記憶は以前にも増して蘇ってきているようだった。
ともちゃんとしては、これ以上賢哉に関わって欲しくなかった。前世を思い出されては困るのだ。
だが賢哉は立ち止まったまま、ゆっくりと首を振る。
「いや、俺達も戦おうよ。椎葉や、神冷先輩、御堂先輩も頑張っているのに、俺だけ家に帰るとか、ちょっとカッコ悪くない?」
「私は賢哉に怪我をして欲しくないの。お願い、一緒に帰ろう」
「朋渚の気持ちは嬉しいけれど、やっぱり俺も戦う。たいした戦力にならないかもしれないけどさ。一人だけ帰るとかできないよ。俺はここに残る」
いつにもなく強い口調で賢哉は言い切った。
「やっぱり……そう言うと思った。私、賢哉のそんなところが大好きだよ」
ともちゃんは愛おしそうに彼を見つめる。彼女は知っていた。彼はいつも優しくて強い人だったと。彼は昔もそうやって自分を大切にしてくれたのだ。
「朋渚、なんかどうした? そんなキャラだったっけ? まぁ、嬉しいけどさ」
ともちゃんに見つめられ、賢哉は照れくさそうに笑った。
れんと会話を交わした北川麻沙美は、不機嫌な顔で興俄に詰め寄っている。
「貴方、蓮見れんの記憶を消してなかったのね。まだ私を姉だと思っているじゃない」
「そのままにしておくと言わなかったか?」
「聞いていません。やっぱり信用ならないわ。距離を取るって言いながら、どうせ私に隠れてあの女といちゃついていたんでしょ」
「受験生だから忙しいと伝えて、最近は会っていない。ここで会ったのも偶然だし、久しぶりだ」
面倒だと言わんばかりの顔で興俄は答える。しかし、麻沙美の怒りは収まらない。
「そんな説明で納得すると思う? この戦いが終わればきっぱりと別れてもらいます。他にも女がいるんでしょ? 私が何も言わないのを良いことに、あちこちに女を作って……」
「今、その話は必要か? 後にしてくれ」
興俄は苛立ったように答え、スタスタと歩き出した。
「いやぁ、相変わらず怖い彼女だねぇ」
御堂が笑いながら興俄に近寄る。絶対に面白がっている言い方だ。
「おい、誰に向かって口をきいているんだ。俺を誰だと思ってる。身分をわきまえろ」
「え? 俺は同級生の神冷興俄くんに話しかけてるんだけど? 嫉妬深い彼女がいると大変だなぁって、クラスメイトとして気遣っているんだよ」
すました顔で御堂が答える。
「あの気性は一生、治らないだろうな」
興俄がぼそりと呟いた。
「でも強い女が好きなんだろ。愛されてるし、いいじゃないか」
にやりと笑った御堂を見て、興俄は黙った。
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