終焉の時

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終焉の時

 外に出ると強烈な日差しが遠慮なく照り付けた。しばらく歩いたところで冬華とゆかりんが立ち止まった。 「私達を泊めてくれた、斎藤さんの息子さんが住む下宿先ってこの先だと思うんだ。何かできることがあるかもしれないから、ゆかりんと行ってみる。お母さんに泊めてもらったお礼も伝えたいし」 「無事を確認したら戻って来るね」  冬華とゆかりんが告げる。 「分かった。僕たちは少し先にいる。さっき、爆音が聞こえたんだ」 「ゆかりちゃんを頼むぞ」 「任せて。二人とも気を付けてね」  四人は手を振って別れた。    冬華とゆかりんは斎藤さんから聞いていた住所へ向かうべく、警戒しながら慎重に歩いた。周囲には黒焦げた車や自転車が転がっているが、人影はない。少し先で爆音が聞こえる。ここにいた敵たちが暴れているのだろうか、鷲たちは大丈夫だろうかと話ながら歩を進める。  斎藤さんから聞いた家は、店舗兼自宅がある木造二階建ての民家だった。住居部分は二階で一階は店舗だろう。しっかりとシャッターが閉じられていたが、何かがぶつかったのか大きく凹んでいた。店舗の窓ガラスは割れて段ボールが貼ってある。隣には駐車場があり、箱バンが停まっていた。箱バンの車体には青果店と書かれていた。 「ここは八百屋さんなんだね。無事なのかな。窓ガラスも割れているし」  二階部分を見上げてゆかりんが言った。 「シャッターくらいなら、すぐに直せるかも」  冬華はシャッターの凹んだ部分に手を当てる。目を閉じ念じるとシャッターはゆっくりと波打ちながら元の形に戻った。 「何回見てもすごいね」  ゆかりんが拍手をしたその時、 「女だ。女がいるぞ」  背後から男の声がした。振り向くと武装した五.六人の男が立っていた。 「若い女、久しぶりに見たな」 「カワイイお姉ちゃんたち、一緒に来てもらおうか」  男達はにやにやと笑いながら、舐めまわすように二人を見ていた。  冬華はゆかりんを庇うように一歩前に出た。冬華の背に庇われたゆかりんはひっと息を飲む。 「ここは私が何とかするから、ゆかりんは逃げて」 「え、でも……」  ゆかりんは自分を庇う親友の背を見つめる。 「私一人じゃ、ゆかりんを守れないかもしれない。だから逃げて」  冬華は一言ずつはっきりと告げて、後ろ手で震えているゆかりんの手を握りしめた。 「御堂さんの所まで逃げて。お願い」  冬華の手も震えていた。ゆかりんは黙って頷くと、冬華の手をしっかりと握り返した。 「分かった。たっくんと椎葉くんを呼んでくる。すぐに戻るから、絶対に無事でいてよ」  ゆかりんが一歩踏み出した瞬間、男達の気を引こうと、冬華は男の一人が持つライフルに念を込めた。とにかくバラバラになれと強く念じると、ライフルは激しい音を立てながら空中で分解された。ライフルを持っていた男も弾き飛ばされて動けない。  冬華はゆかりんの姿が見えなくなったのを確認すると、反対方向に走り出した。 「捕まえろ!」  男達に追われ必死に逃げる。だが、あっさりと捕まってしまった。 「離して!離しなさいよ!」   結局冬華は、もと居た場所に引きずり戻された。一台のワゴン車が近づいて、彼女の横で止まる。 「あんたたち、絶対に許さないから」  冬華は渾身の力を込めて身を振りほどこうとしたが、背後から羽交い締めされて身動きが取れない。男達はにやにやと笑いながら、舐めまわすように彼女を見ていた。冬華の力は人間には通用しない。男の一人がポケットからバタフライナイフを取り出して開いた。ナイフの先が彼女のTシャツの襟に近づいた。 「や、やめて……」  悲鳴を上げようとしたが、恐怖で声がでない。意識を集中させられず、ナイフを破壊することもできない。 「大人しくすりゃ、怪我はしないよ」 「おい、早く車に乗せろ」  別の男がそう言うと、男はブツブツと言いながらナイフをしまった。  冬華の視界に拳銃を持っている男が入った。深呼吸をして目を閉じ、銃が暴発するように念じる。銃は持っている人間もろとも吹き飛んだ。隙をついて逃げようと走り出す。しかし、あっさりと行く手を塞がれた。片足を蹴りだすが、簡単に掴まれて引き倒された。アスファルトに頭部を打ちつけ、激しい痛みが彼女を襲った。それでも地を這いながら何とか逃げようとする。背後から救い上げられるように捕らえられ、今度は身体と顔を殴られる。  結局人間は圧倒的暴力に勝つことはできないのだと、冬華は薄れゆく意識の中で思った。  
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