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男達が冬華に覆いかぶさっていた。彼女の隣にはスモークガラスに覆われた車がトランクを開けて停まっている。冬華は一切の抵抗をせず、腕はだらりと投げ出されていた。生きているのかどうかもわからない。服ははだけ、白い足がむき出しになっている。
「冬華!」
彼女の姿を視界に捉えた瞬間、鷲は頭で考えるよりも先に身体が動いていた。
「貴様らぁ、冬華から離れろ!」
刀を抜いて突進してくる鷲を見た敵たちは、その形相に驚き、慌てて冬華をトランクの中に放り投げた。
「死ねえぇ!」
鷲は刀を握ったまま男の一人に体当たりし、身体を貫いた。骨のあたりで止まった刀を引き抜くと、周囲は紅に染まった。腕を振り血肉を払いながら、鷲は叫んだ。
「全員、八つ裂きにしてやる!!」
眼前で銃を構えている相手に、少しも怯まず刀を振り下ろす。息もつかず振り下ろした刀は男の身体に深く入った。男達は異様な鷲の雰囲気に圧倒されていた。まずいと思ったのか逃げ出した男がいた。鷲は逃げる人間も容赦なく追いかけ、盲目的に刀と共に体当たりしていた。
血まみれになった身体が路上に転がる。今まで共に戦って来た御堂でさえ、鬼神のような鷲を前にどうしていいか分からなくなっていた。
動かない血まみれの身体に、鷲はなおも刀を突きたてていた。彼が刀を抜くたびに、刀の先から血が滴り落ちている。
「鷲、もういい! こいつらはみんな死んでいる。もうやめろ、充分だ! やめてくれ!」
御堂が背後から身体を掴んで揺さぶると、鷲は汗と血にまみれた刀の柄から手を離した。
「冬華! ねぇ、しっかりして。目を開けて!」
ゆかりんの悲痛な声で、鷲は我に返って冬華に駆け寄る。
「おい、大丈夫か! 生きてるか! お前が死んだら鷲はどうするんだよ!」
御堂が呼ぶが返事はない。
「冬華、しっかりしろ。約束しただろう? もう離れ離れにならないって」
鷲は彼女の手を握りしめて名前を叫んだ。しかし、彼女の目は開かれない。それでもなお、鷲は叫び続けた。
「お願いだ、やっと逢えたんだ、彼女を奪わないでくれ……」
再び生きて会おうと約束し、その約束を果たせぬまま、己の命は尽きた。彼女もまた失意の中、その生涯を閉じた。数百年の時が経ち彼女と再び出逢った。
だが、出逢ってまだ数か月しか経っていない。それなのに、これから共に生きたいと思っていたのに。
鷲がどれだけ呼びかけても、冬華が答える事はなかった。
「キミたち、うちの車に彼女を乗せてくれ。とにかく病院へ運ぼう」
斎藤さんの兄が家から出てきて、車の後部ドアを開ける。息子さんが心配そうな顔で、タオルケットを差しだした。
「これを彼女に……」
「ありがとうございます」
ゆかりんが受け取って、冬華の身体に掛けた。
「騒ぎ声が聞こえたから、窓から外を見たんだ。彼女が男達と言い争っていた。何とかしなければと思ったんだが、相手は何人もいて銃を持っているし……何もできなくて申し訳ない。無理をしてでも助けるべきだった。本当にすまない」
斎藤さんの兄に深々と頭を下げられ、鷲はゆっくりと首を振った。
「いえ、気にしないでください。怪我がなくてよかったです。病院までお願いできますか」
「もちろんだ。早く運ぼう」
鷲は御堂に刀を預け、車の後部座席にそっと冬華を横たえた。
「一人で大丈夫か」
「ああ、後は頼む」
鷲は御堂の言葉に頷いた。
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