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きっと良かったんだ。僕たちは巡り会えて。
一ヶ月が過ぎた。
その間、世の中は大きく変わった。応援に駆けつけてくれた国連軍の協力もあり、日本は何とか持ちこたえた。
持ちこたえたが、その後が大変だった。
多くの人が亡くなり、至る所で被害が生じていたため人々は疲弊しきっていた。通信環境は復活したが、憶測と現実、真実と虚構が入り混じって、誰もが疑心暗鬼になっていた。生活物資は不足し、日本中は混沌としていた。
だが、その中でも人々は懸命に生きようと必死だった。
夏はとうに過ぎ、秋の気配が深まる頃。冬華の命は助かったが、彼女は未だ眠ったままだった。脳波計のモニターは緩やかなリズムを刻んでいる。入院した当初、身体中に繋がれていたコード類は最近やっと数が少なくなった。
鷲は窓から外を眺めていた。彼は海外から戻ってきた両親に冬華の話をし、一緒にいたいと告げた。鷲の家族は身寄りのない冬華を案じて、鷲の申出を快く引き受けてくれた。
病室の窓からは中庭が見える。あの惨劇などなかったかのように、レンガ造りの花壇には小さな花が色づいていた。今日は天気がいい事もあり、散歩をしている人の姿も見える。
ゆかりんは御堂と会話をしながら時折、冬華の顔を覗き込んでいた。
「冬華、今日はこんなに天気が良いよ。ほら、雲が流れている」
ゆかりんがいつものように声をかけると、今まで一度も動かなかった彼女の瞼がゆっくりと開かれた。
「え? え? 冬華?」
「お、おい鷲。気が付いたぞ」
御堂が慌てて鷲を呼ぶ。
「私、先生を呼んでくる」
ゆかりんが、慌てて廊下に飛び出した。
「えっと……ここは?」
ゆっくりと起き上がり、冬華は首を傾げた。
「ここは病院だよ、冬華、良かった。本当に良かった」
鷲は冬華の両手を握りしめた。
だが、冬華は不安そうに握られた手に視線を落とす。そして鷲を見た。
「あの……すみません。あなた、誰です?」
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