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「ねぇ、鷲くんたちも一緒に行こう」
冬華がニコニコと微笑みながら駆け寄って来た。鷲は魅せられたように、目の前に立つ彼女の笑顔を見つめた。
「鷲くん?」
何も言わない鷲を訝しがって、冬華は首を傾げる。
「鷲くん、行こう?」
鷲はそっと己の手を差し出した。
「僕は冬華の記憶は戻せない。けれど、これから二人で時を重ねて、新たな未来を作ろう」
冬華はその手をじっと見つめた。
「私は自分が何者かも分からない。でも鷲くんと共にいたいって思う。それでもいいなら」
彼女は鷲の手を握り返し、微笑んだ。
「それで充分だよ。僕は今、ここにいる、ありのままのきみを見ている」
「ありがとう」
糸を繰る苧環のように、歴史は繰り返される。明けない夜はないと言うけれど、必ずしも幸せな朝が訪れるとは限らない。
それでも人間は、自分に与えられた運命を歩むしか他はない。人の命もまた、次の命へと繰り返し続いていくのだ。
私が、私である為に。
了
※お読みいただき、ありがとうございました。
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