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 田切は、探偵とウェイトレスについて行く形で、外の鉄製階段を降りた。  物置き小屋の下に位置するスペース。街灯から届く薄明かりによって、そこが狭い駐車場であるのを田切は悟った。 「田切くん、覚えているかい」  田切がまだ放心したようにしていると、探偵は先を続けた。「ドロシーが襲われそうになり、一階に駆け降りたとき、女将さんはこの『裏の厩』から戻って来た。そして、女将さんが失踪した直後『流しが詰まった』んだ。これは女将さんが毎日流しが詰まらないように、きちんと清掃を行っていた証拠と言えないかな」  聞いた田切には、「ああ」とため息のような声を漏らすのがやっとだった。 「一人で帰れるかね」若月はウェイトレスに顔を向けた。 「私、子どもじゃないんですからね」女性は抗議したが、その声は愉快げであった。  それからクライアントは、スカートを履いているにもかかわらず、そばの垣根をまたぎ、夜の住宅街へ溶け込んでいった。最初からこのときまで維持されたその安定した所作は、田切に完璧なスパイ、あるいはくノ一(・・・)のような印象を残した。 「田切くん、最後だ」  探偵に手でも引かれるようにして、田切は表に回った。店の前では赤色灯を明滅させるパトカーが何台も停まっていて、さらに店内からはせわしげに駆け回る警官の足音が伝わってきた。  中に入ろうとする警官の一人が、二人に不審げな視線を投げた。しかし探偵は構わず、ショウウィンドウを、曲げた指でコツコツと叩いた。 「ここにガラスがはめ込まれてなかったとしたら」探偵が言う。「ちょうどここにくぼみがあったことになる。さて、田切くん。ここにはかつて、何が置いてあったと思う?メルヘンの時代にはないから、僕は魔女に持って来させたわけだがね」  言いながら手で電話をかける振りをする探偵の姿は、あのモノクロの創業者のそれと重なった。
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