悪役令嬢なので武器商人を脅したら前世の姿に戻されました。〜ユーマティカの場合〜

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 マーキス様、どうして私を愛してくれなかったの。そう思わないといえば嘘になる。 でもそれはあまりに主観的すぎる想いだともわかっている。  愛してください。  はいわかりました。  なんて簡単に愛は育まれやしない。婚約者だから好きになる、なんて。人の感情はそんなに単純ではないし。  まして婚約者に相応しくなる努力をしたからと言って、その姿を愛おしく思われるなんてことはないのだと、もっと早く気づくべきだったのは私の方だった。  ならば、せめて卒なく婚約者の演技をしてくれたらよかったのに。それくらいなら妥当な想いだと思える。  でも幼馴染みでもある私にそんな芝居、打てやしない不器用さも愛おしかったから仕方がない。  マーキス様、完璧な統治者とは言えない貴方が愛する人と結ばれるように。  それによってこの国が安泰を迎えつづけるように。  そして私が、貴方の愛の代わりに自由を手にするために…私は 真っ白い雪に包まれたフプルーニア王国王都。 昨日までの吹雪は止み、つい先ほどまで抜けるように青い空に高らかな祝いのファンファーレが鳴り響いていた。 でも今は。 王宮のバルコニー広場で結婚発表を待っていたはずの民衆が悲鳴をあげ私達を見上げている。  私は宙に浮かびバルコニーからこちらを見上げるマーキス様を冷たい目で睨みつける。みぞれが降りそぼっているが寒さは感じなかった。今は何かを感じている余裕などない。  第一王子マーキスの婚約者としてふさわしくあれるよう一分一秒を惜しんで妃教育に取組んできた。 それが私のこれまでの人生。 でも私は今すべてをこの手でぶち壊そうとしている。 マーキス様の愛なしに、束縛だらけの王妃になどなる意味がなかった。彼の愛が手に入らないのなら、私が選ぶのはこの身の自由。 そのためになら、悪役にだってなってみせると決めた。 心臓は早鐘を打つが、それすら気にならないほど腹に力を籠め、叫ぶ。さあ行くわよ。 「この私をよくもないがしろしろにしたな!…フプルーニア王国第一王子マーキス・フプルーニア! 婚約破棄だ!私は絶対にお前を許さない! そしてこの国を決して生かしてはおかない!!そのこざかしい泥棒女マルシェリーヌもだ! 私の暗黒の魔力によりこの国を呪おう!」 雷鳴とともに私の声が響き渡り、その轟音に民衆が耳を覆ってしゃがみ込む。  暗黒の魔力ですって。笑っちゃう。もう少し格好のつく言い回しを考えるべきだったわね。 第一王子とその恋人マルシェリーヌが抱き合い睨むようにこちらを見ていた。  胸がジリ、と痛む。マルシェリーヌならきっと将来王妃を立派に務められる。マルシェリーヌとなら、マーキス様は幸せになれる。  だから私は王宮を去ると決めた。だけど… 雷鳴が合図だったかのように真っ黒い雲から凍るような吹雪が吹き荒れる。 完璧な光景だった。  これこそ非の打ち所のない婚約者が国を追われ、ぽっと出の身分もない女の子が波風を立てず新たな王妃候補となるのに十分な布石。 私は“悪役として”この王宮を去る。 それが最もこの国にとって分かりやすい筋書きだから。 悪役令嬢とでも極悪魔女とでも、好きに呼べばいい。私は私が正しいと思うように生きたい。    もう後戻りはできない。  でも絶対に後悔なんてしないわ。  私は元王妃候補である以前にこの国最強の魔女、ユーマティカなのだから。 作戦通り、こうして私の完璧な婚約破棄が実を結んだ。  
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