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二本の指でつまみ上げた携帯電話を情けなさそうな顔で見つめていたハルトは、おもむろにその電源ボタンに指をかけた。何度も親指を動かしていた彼は、ついに全身の力が抜けたかのように腕をだらりと垂らし、目を閉じて天を仰いだ。
「あのバカ。まさかの水没かよ」
ナオトは気が狂ったかのように頭を掻き毟りながら、
「あの様子じゃデータも消えてるに違いないぞ」
「待て待て。まだお前のスマホがあるじゃないか。そこには送信履歴が残ってるだろ?ハルトがそれを見て、もう一度ここに来る可能性だって……」
「何言ってんだよ。俺たち丸焦げで死んだんだから、スマホだって丸焦げに決まってるだろ」
この世の終わりだ。セーブデータが消えてしまった子どもの頃の父の気持ちが、今ならわかる気がした。
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