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「俺は、バイク事故で本当に死んだ。でも、生き返ったんだよ」
「生き返ったって、そんなことあるのか?」
あるんだと言って彼は意味ありげな笑みを浮かべた。
「復活の呪文、って知ってるか?」
「あの、ドラクエのあれか?」
「そう。あれだ」
昔のゲームはデータをセーブすることができず、中断したゲームを再開するためにはパスワードが必要だった。それを復活の呪文と呼んでいたと父から聞いたことがある。後にセーブもできるようになったそうだが、それとて完璧なものじゃなく、運が悪ければデータが消えることもあったという。そのとき父はこの世の終わりかと思えるほど嘆いたそうだ。
「それが、どうしたんだ?」
「復活の呪文は、リアルな世界にも存在するんだよ」
「は?どうせならもっとましな嘘をつけよ」
「嘘じゃないって」
辻本は真剣な表情で話を続ける。
「俺の家は神職の血筋でね。これは、そういった家系の人間しか知らない話なんだ。だからもう一度言うぞ。絶対他人には言うなよ」
念を押すように俺の目を見つめる相手に肯き返すと、
「お宮参りってわかるか?」
聞いたことがある気はするが、どんなものなのかはわからないので今度は首を横に振った。
「赤ちゃんが生まれたあと、初めてウブスナの神にお参りをすることなんだよ」
「ウブスナ?」
「産まれた土地の神と書いて産土の神。その土地の守り神ってことだ。氏神さまと言ったほうがわかりやすいか」
そういえばそんな写真をアルバムで見たことがある。赤ん坊の俺が着物を着せられ、境内で母親に抱かれる姿。あれはどこで撮ったものだったのか。地元の神社だとすると限られてくるが。
「復活の呪文は、そのときにお参りした神社で聞くことができるんだ。ただし、それはあくまでも自分が生まれた土地の氏神様に限ってのことだ。仮に、東京生まれの人間が八坂神社にお宮参りしていたとしても何の意味もない。復活の呪文を聞くことはできないんだ」
「じゃあ、俺も氏神様にちゃんとお宮参りしていれば、復活の呪文を聞くことができるのか?」
「恐らくできるはずだ。ある特殊なお参りの仕方をすればな」
「特殊って、どんな?」
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