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「普通は、お賽銭を入れて、鈴を鳴らして、それから二礼、二拍、一礼だろ」
辻本は言葉と共に体を動かして見せるが、俺にはそれが合っているのかどうかわからない。今まで深く考えずにお参りしていたからだ。でも彼が言うのならそうなのだろう。
「復活の呪文を聞くときは、お賽銭は要らない。まず四礼四拍して、それから鈴を鳴らすんだ。それ以外のことはしなくていい。そうしたら声が聞こえてくる」
「それが、復活の呪文ってことか?」
「うん。それを書きとめて、誰か信頼できる人に預けておくんだ。で、もし自分の身に何か起こったとき、同じ神社でその呪文を唱えてもらう。すると生き返ることができる」
「呪文を唱えるときも特殊なお参りの仕方があるのか?」
「いや、そこは普通のお参りの仕方でいい」
「お前は、誰に呪文を預けていたんだ?」
「進んで預けていたわけじゃない。俺は生まれてから小学校入るまではこっち……京都に住んでいたんだ。母親の実家も京都だから、お盆や正月に里帰りするたび、母さんは俺を氏神様に連れて行った。その頃は面倒くさいなと思っていたけど、今となっちゃそれに俺は救われた。つくづく間違えずにメモしておいてよかったと思うよ。母さんは俺の復活の呪文を大切に保管していたんだ。俺が死んだとわかったら、すぐに京都に飛んで、復活の呪文を唱えた。それで俺は生き返った。ただ、京都まで行っている間に、俺が死んだことが周囲に知れ渡ってしまった。だからやむなくお通夜やお葬式をするしかなかった。だがそうなると、たとえ生き返ったとしてもそのままそこで生活するわけにもいかなかった。仕方なく俺は母の実家に引き取られることになった。俺は過去を捨て、京都で新しい人生を始めたってわけだ」
「おい」
突然の掛け声にびくりとして振り返ると、ナオトが立っていた。
「探したぞ。急にどっか行っちゃうんだもん」
そこで俺の陰にいた辻本に視線が移る。その表情に警戒の色が浮かんだ。
「あ……っと……。どうした?なにか問題でも?」
「いや、違う違う。偶然高校の頃の友達を見かけたもんだから、追いかけて捉まえただけだ」
「そうなんだ」と安堵した様子のナオトが会釈をして見せた。
辻本も目礼を返してから、
「そうだ。俺、これから用があって急ぐんだ。じゃあ、また。久々に会えて嬉しかったよ」
彼は手を振りながら通りに出て、そのまま人ごみに紛れていった。
残された俺は、誰にも言うなと言われたにもかかわらず、辻本の話をすぐにナオトに聞かせた。
俺が話し終えるとナオトは半笑いで口を開く。
「ほんとか、それ。うまく担がれたんじゃないの?」
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