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「男がナイフを持って暴れている」
「人が刺された」
「灯油缶を持っていた」
「火を点ける気だぞ!」
周りに座っていた人たちも慌しく席を立ち、我先にと逃げ出した。
それとは逆に、俺は走ってくる人たちを掻き分けて後方へと向かった。頭の中では昨今起こった事件が浮かんでは消える。
誰かが止めなければ。それなら俺が適任だ。俺は復活の呪文を手に入れた。たとえ死んだとしてもすぐに生き返れる。
二つ後ろの車輌に入ると、男が奇声を上げていた。片手に大振りの包丁、もう片手に灯油缶を提げている。通路や座席には複数の人が倒れ、うめき声を漏らしていた。
男は灯油缶の蓋を開け、そこかしこに中味の液体を撒き散らした。俺の鼻にまで異臭が届く。
まずい。火をつけられたら最悪の事態になる。そう思いながら俺は全力で走り、男に飛びついた。
あれ?どこだ、ここは……。
体が、浮かんでいる?
足元には見覚えのある建物が見えた。
あれは、俺の氏神様じゃないか。
と言うことはなんだ?もしかして俺は死んだのか?
そうか。これは魂の状態ってことだ。俺は命を落としたが、復活の呪文を聞いていたおかげでここに留め置かれたのだろう。この先ナオトがここで復活の呪文を唱えれば、俺の魂は甦るってことに違いない。
そう考えていた矢先、俺の目の前に予想外の顔が現れた。ナオトだ。ふわふわ浮かんでいる。
「え?お前どうしてここに?」
「お前と同じ考えだ。死んでも大丈夫だから一か八かヒーローになろうとした。でも失敗しちゃったけどな」
いたずらっ子のようにナオトは舌をぺろりとだすが、ぜんぜん可愛くない。
「ふざけるなよ。なんでお前までそんなことしちゃうわけ?お前まで死んだら誰が復活の呪文を唱えるんだよ。生き返れないだろ。俺はお前がいたから……」
ナオトがドヤ顔で手のひらをこちらに向けたので口をつぐんだ。
「フフン。俺が何の考えもなしにそんな愚かなことをすると思うか?」
「なに?どういうこと?」
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