変わらない(髪をつかまれる・拘束)

1/1

2人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ

変わらない(髪をつかまれる・拘束)

 長い髪が自慢だった。腰まで届くほど伸ばすのは時間がかかったし、毎晩、丁寧に洗って乾かすだけで、一時間はかかる。手入れはとても大変だ。でも、その甲斐あって、枝毛もなく、艶のある綺麗な長髪を維持することができていた。  今の、今までは。 「平安時代からタイムスリップしてきたの? 今どきあんなヘアスタイル、ありえないでしょ」  そんな言葉が、教室の後ろから聞こえてきた。入学式を終えた、翌日のことだ。私たちは早くもヒエラルキーを意識し、その底辺にはいかずに済むようにと願いながら、新生活をスタートさせていた。そんな中で、その言葉はあまりにも冷たく、鋭かった。  だから、髪を切った。  違う高校に進学した幼馴染が、訪ねてくるなり無言で私の髪を引っ張った。まったく容赦のない勢いに、頭皮が引っ張られて、目尻に涙が浮かぶ。 「何これ」 「えっ……と、イメチェン、みたいな」 「は?」  髪から手を離さず、彼女は唇を歪めた。心底不愉快なときにしか見せない、その表情にびくりとする。 「イメチェン? イメージチェンジ? 何を勝手に」  ぐい、と髪ごと頭を上げられて、玄関の壁に後頭部が当たった。痛い。 「変わるなんて許さない。あんたは」  不意に耳元へ寄せられた口からこぼれる言葉が、いつものように私を甘やかに拘束する。 「私のものなんだから」
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加