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「そんな言われ方するんなら、俺、帰る」
古木は、玄関に向かって歩き出した。
河野は、とっさに古木の右手首を掴み、
「まあまあ、そんなこと言わずに、飯だけでも食って行けよ。せっかく来たんだから」
と、引き留めた。
「離せよ」
それを振り払おうとする古木。
その時、
「動かないで !」
という大きな声がした。
二人が振り返ると、里奈が、ケーキの箱から取り出したロウソクを左手に持ち、火の付いたライターを近付けていた。
「一歩でも動いたら、これに火を付けるわよ !」
「・・・」
しばらくの沈黙の後、古木が口を開いた。
「いやいや。ダイナマイトみたいな扱いされても・・・それロウソクだし・・・元々、火を付けるもんだし」
「どっちにするの ? 今日、受精したかもしれない私達の子供の誕生日を祝うか、これに火を付けるか」
「結局、どっちにしても誕生日を祝う事になるじゃん」
「さあ、どっち ?」
「分かったよ。一緒に誕生日を祝うよ」
まともに相手をする事に疲れてきた古木は、抵抗する事を止めた。
「良かったー ! じゃあ、さっそく始めようか」
里奈は笑顔になり、箱から取り出したケーキに、持っていたロウソクを差し出した。
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