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ぬるくなった缶チューハイを一気に胃へと流し込む。液体が触れた部分は鈍い熱を持つ。安く酔えるストロング系は、燻る思考をほどよく遠ざけてくれる。眠れない夜にはぴったりだった。
外を見れば明るい町と、それとは対照的な深い夜空に浮かぶ三日月が僕を迎えてくれているみたいだった。手を伸ばし窓を開ければ冷えた空気がなだれ込む。アルコールで火照った体を通り過ぎて部屋中を巡り、淀んでいた空気を追い出した。
そのままスマートフォンを手に取り動画アプリを開く。数少ない登録チャンネルからデフォルトのままのアイコンをタップする。表示された君のチャンネルは時を止めたままだった。八本の動画を古いものから順に再生する。初めての動画からは九年が経とうとしていた。
画面には白い壁を背にアコースティックギターを持つ少女が映る。何の前触れもなくかき鳴らされるギターは、激しく鋭い。肩が上がる。長く黒い前髪から涼しげな目元が覗く。大きく吸いこまれた空気は、一瞬にして波動を生みだした。全てを切り裂くような、それでいて全てを受け入れるような歌声。僕は身じろいだ。
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