カウントアップ

2/5
前へ
/5ページ
次へ
 華奢な体の全てを使って生み出される彼女の音楽は、僕の心を鷲掴みにしたまま離すことはなかった。高校生になって最初の夏、君を見つけた。どうやって見つけたのかは覚えてない。おすすめの中にあったのかもしれない。ただ他の動画に比べて素っ気ないサムネイルとタイトルに、不思議な引力が働いていたことだけはよく覚えていた。  スマートフォンの小さな画面から溢れてくるエネルギーは、茹だる夏を吹き飛ばした。細いのに芯の通った力強い声、込められた熱情で外れる音程。特別歌が上手いとは思わなかった。  あえて悪く言うなら素人ががむしゃらにギターを掻き、感情の赴くまま叫んでいるだけ。それでも、無機質ささえ感じる白い肌が熱を持ち、小さな口が張り裂けんばかりに何かを訴え、宝物のように繊細な指先で無骨なギターを扱う姿は、僕の知らない世界線のものだった。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加