カウントアップ

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 以降、暇さえあれば彼女の動画を見た。はじめは吸いこまれるように貪った。投稿されたたった一曲を繰り返し何度も。回数を重ねるうちにどうして惹かれるのかが少しずつ理解できるようになっていった。こんな風に感情をさらけ出せる場所も方法も、僕は持っていない。その眩しさに憧れてしまっていた。  特別上手くない歌を歌う、特別可愛いわけではない同い年くらいの女の子。その中に渦巻く激情。背徳感と憧憬と彼女の熱にその身を灼かれる時間は、僕の喉に蓋をする何かを緩めてくれた。  彼女を見つけてからというもの、一向に新しい動画は投稿されなかった。もうこれっきりなのだろうか。諦めかけた時、立て続けに来た通知がその存在を確かめてくれた。とても長い十ヶ月だった。  彼女の荒々しい歌い方は、曲が変わっても何も変わらない。投稿された動画のほとんどは有名アーティストのマイナーな曲、特にファンの間で人気のないもののカバー。その全てが彼女の色に染められ、原曲を思い出すことはできなくなっていた。
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