カウントアップ

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 当然そんな都合のいい出会いはなくて、どこにでもいる普通の大学生から卒業して、今はありふれたサラリーマンだ。きっと彼女も同じ空の下で生きているのだろう。息苦しいこの世界で、翼を失わずに生きているだろうか。  液晶の中で閉じ込められた過去は繰り返される。その度に君は何度でも蘇り、僕の心も熱を持つ。歌い手としての君は死んでしまったのかもしれないけど、今も誰かに大切なことを伝えられているんだって、伝えたい。  コメントのひとつでも残そうかと思ったけど、かゆくなるようなコメントを過去に残しているせいで毎度手が止まってしまう。今日もまたコメント欄を開くのが精一杯だった。  チャンネルのトップを表示する。当時は十一人いた登録者もほとんどいなくなってしまった。残酷な時の流れを象徴しているようだった。  片手で数えられるようになってしまった登録者に反して増えていく視聴回数に、君は気づくだろうか。気づいてくれたらいいな。まだここに、君の願いを心の底から肯定し続けているやつがいる。君の声を求めてる人間がいる。その事実に。  外の三日月は一層深まった夜の中で燦然と輝いていた。僕のささやかな願いを叶えてくれそうだと、何となく思った。スマートフォンの時計を見ると十二時を過ぎ、十三日に表示が変わっていた。電源を切り、開け放たれた窓を閉める。部屋にはまだ冬の匂いが満ちていた。
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