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13.終幕
僕は脳死状態から目覚めて順調に回復していった。担当医は奇跡だと言っていた。
神の力が働いているので当然だ、とはもちろん言えない。
言ってもいいけど言ったら確実に頭おかしいと思われるよね。
ICUから一般の個室に移った僕の元へ滉一さんがお見舞いに来てくれた。
「元気そうで良かった」
「滉一さんも」
「あー……と。これは夢じゃないんだよな」
滉一さんは部屋を見回す動作をしたので僕は吹き出した。
「夢じゃないってば」
まぁあんなことがあったら何もかも全て夢かもって思っちゃいそうだけど。
「そうだ、見てくれよこれ」
「なぁに?」
「ほら、ここ」
滉一さんは古ぼけたアルバムを開いて一枚の写真を指さした。
そこには見覚えのある人物が写っていた。
「ロットバルト?!」
「そうなんだよ。あの後ばあちゃんにロベルトって人を知ってるかって聞いてみたんだ。そしたらこのアルバムを出してくれてね」
「嘘……本当に千代子さんと一緒に踊ってたんだ……」
写真の中で千代子さんと親しげに肩を組んでいるのはレッスン用のタイツ姿のロットバルトだった。髪型は違うが間違いなく同じ顔だ。
当時ロベルトという名前で現在のワガノワ・バレエ・アカデミー(旧帝室バレエ学校)に通っていてその時留学していた千代子さんと親しくしていたそうだ。
千代子さんはロベルトと恋人だった時期もあるそうだが、結局日本に帰国して日本人男性と結婚している。
ロットバルトは今でも千代子さんのことを大事に思ってて孫の滉一さんのことが気になってるんだ。
僕のことを馬鹿にする態度はいけ好かないが、中身は意外と良い奴なのかもしれない。
「そういえばあの、滉一さんを連れてきた人って?」
「あれは神の使いって言ってたぞ。天使ってことじゃないのか?」
「え~そうなんだ。滉一さんはどうやってあの天使とコンタクトをとったの?」
「俺もよくわからないんだが……花織の部屋から抜け出して意識朦朧としているとき、俺がお前に助かってほしいと願って泣いていたらしいんだな。それがあの天使に聞こえたってことみたいだ」
僕のゲームの行く末を監視していたとしたらそれも有り得るか。
「あー……そういえばあの天使に言うの忘れちゃった」
「何をだ?」
「資料に添付されてる僕の画像取り替えてっ言えばよかった」
「は?」
「だってさぁ、半目のぶっさいくな顔で写ってるんだもん」
「なんだよそれ」
滉一さんは吹き出した。
「お前って実はナルシストだよな」
「え?そんなこと無いよ」
「いいや、自分が可愛いいと思ってるだろ」
「は?何それ、死にかけた人に向かってそういう事言う?」
「俺だって殺されかけたぞ」
「あ!花織ちゃんそういえばどうなったの?」
「親が精神科病院に入院させたらしい」
「ああ……」
どうせ訴えても心神喪失状態だったってことになるだろうからと滉一さんは訴えないことにしたらしい。
可愛そうだけど、ちゃんと病院で治療して治ってくれることを祈る。
これ以上僕も滉一さんも襲われませんように。
「直也」
「ん?なに?」
「俺、バレエ団を辞めてこっちに戻るよ」
「え!なんで!?もったいないじゃん!」
「お前と一緒にいたいんだ。今回のことがあって思い知った。今まで俺にはダンスしかないって思ってたけどそれよりお前を失うほうが怖いんだって」
「だめだよ。僕は反対だ!」
「いいんだ。もう決めたから」
「絶対だめ!そんなこと言うなら別れるから」
「何でだよ……。お前は一緒に居たくないのか?」
「それは一緒に居たいに決まってる。でもそのために滉一さんのチャンスが潰れるなんて僕は自分で自分が許せなくなるから絶対に嫌だよ」
2人でしばらく睨み合った。
「わかった!そうだ、お前がアントワープに来いよ」
「はあぁあ?そんなの無理に決まってるでしょ」
「お前さ、自分が思ってるより踊れるの知らないだろう?」
「あー、そういうの無理だから」
「本当だって。よし、すぐに連絡する」
立ち上がろうとする滉一さんの手を引っ張る。
「だめだって!やめてよ。もう僕23歳だよ?なんの実績もないのに入れるわけないでしょ。チビだし」
「背が低くても活躍してるダンサーなんてたくさんいるだろ」
しかしこの後押し切られて僕はビデオ審査を受けることになり、なんのまぐれか知らないがその審査も通ってバレエ団に研修生として参加することになった。
滉一さんはドヤ顔で僕に向かって言った。
「ほら、言っただろ」
「まさか受かるとは…」
「柾木先生はなんて?」
「びっくりしてた。僕にそんなやる気あったのかって」
「だろ~?」
「ちゃんと最終的に戻ってきてくれるならいくらでも行って勉強してこいって」
花織ちゃんは入院してしまったし、僕も抜けることになると本当は講師が減ってその分大変なはずだが母は喜んで送り出すと言ってくれた。
一時は死にかけて大変な目にあったけど、結果的になぜか滉一さんと一緒に海外のバレエ団に入ることになってしまった。
ジークフリート王子とオデット姫の結末は演出によってハッピーエンドだったりバッドエンドだったり、いくつかのパターンかがある。その中で最後2人とも湖に飛び込んで、来世で幸せに……というものがあった。
まさにそんな感じで、現世に無事戻った僕たちは2人でいつまでも幸せに暮らしましたとさ。
おしまい♡
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最後までお読みいただきありがとうございます!
思い付きで白鳥に転生するバレエBLを書いてみました。
バレエは見るのは好きなものの経験者では無いためかなりいい加減だと思います。すみません。
個人的に、主人公がオデット風からオディール風になる所は原作との対比が気に入っております。
コメディなんだかシリアスなんだかわからない変な話でしたが、お楽しみいただければ幸いです。
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