1.起きたら湖にいた

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1.起きたら湖にいた

僕はハッと目を覚ました。 なんだ夢か。変な夢だったな……神様なのか悪魔なのか知らないけど。 ん??え……?! うわ、わ!?右を見ても左を見ても水面。 なんで水の上にいるんだ!?ヤバい、僕泳げないんだよ! びっくりして腕を振りまわしてしまった。するとバサバサと羽音がして、水飛沫が立った。 うわ!冷たい!濡れる! ーーーえ??まてまて、羽音? 僕は自分の両手を見た。 白い羽毛まみれ。 首、やたら後ろまで回るし長い。 “うそ、まさか白鳥になってる!?” 叫んだつもりがクエーッグァーッ!という白鳥の鳴き声が広い湖に響くだけだった。 嘘でしょ。白鳥に変身……した……?まさかの人外…… あの悪魔に凡人とバカにされて、なんのゲームさせられるのかと思ったら鳥類に変身って…… そりゃあ、鳥になって飛んでみたいと思ったことが無いわけじゃないけど。 周りを見るとたくさん白鳥仲間がいる。 え、この方達ももしかして元人間で変身させられた?とか? “あのー、すいませーん” 「クァ~、クワっ!」 声を掛けたけどとりあえず無視された。 コミュニケーション取るの無理なのか……軽く地獄…… 僕は仕方なくこの体に慣れることから始めようと思って体を動かしてみた。 スイスイーっと水面を移動するのはすぐにできた。 飛ぶのも、何度かやってみたらできた。でも何故か遠くには行けず、湖の周辺しか飛べない。 そして誰とも話せぬまま夕方になった。 “お腹すいたぁ” 「クェ~ッ」 誰か…… ていうか白鳥って何食べてるんだ? 虫?だとしたら無理なんだけど。 すると突然空が暗くなった。雨か?と思ったら頭上に黒い影が迫っている。 危ないぶつかる!と思ったら黒い影は頭スレスレを飛んで岸に降り立った。 大きな黒い鳥……? そう思ったモノはよく見ると黒い羽に覆われたマントを身につけた男だった。 男が手を挙げると周りにいた白鳥達がクェーッと鳴いて男の周りに集まった。 “え!待って待って置いて行かないで!” 僕も便乗して男に群がる白鳥集団の一番後ろの方に陣取った。 男は近くで見ると異様なほどの美貌だった。舞台映えしそうだなぁ。肩までの黒い髪に血のように赤い瞳でまるで悪魔のよう……って、ああ?!もしかしてあれが悪魔かな!? 「諸君よく集まってくれた。さて今日は新入りがいるようだ。ルールを説明するから来なさい」 新入りって僕のことだよね。 僕は飛び上がって陸に降り立った。すると男のマントでバサッと包まれて気がついたら暗い部屋の中に移動していた。 「わ……すご……」 あれ?喋れる! 人間の手足もある! 「やった~人間に戻れた!!」 「戻れたわけではない」 「ヒィッ!」 いきなり真後ろから話しかけないでよ……びっくりしたぁ…… 「お前には呪いがかかっていて、あることをすればその呪いは解けお前は人間に戻り自由になる。しかし条件を満たせなければ永遠に白鳥のまま私のものとなる」 「ええっ!永遠に白鳥!?そんなの嫌だよ!」 「じゃあゲームに勝て。ルールは簡単。王子と出会って1週間以内に身も心も愛し合うこと」 「えええええ!?」 ちょっと待って僕元から全然モテないキャラなんだけど!一体どうやって1週間で王子と身も心も愛し合うっていうんだよ!?いや、そもそも王子と!?王女じゃなく? 青ざめる僕を無視して美形悪魔は続ける。 「ただし、ちゃんと心から愛し合ってないとだめだしお前は日中は白鳥の姿だ。月の光を浴びている間だけ人間の姿に戻れる」 は……?そんな制限もあったら無理に決まってるじゃん。 ていうかその設定って…… 「白鳥の湖みたい……」 「そうだが?」 「そうなの?!それじゃぁまるで僕がオデットみたいじゃないか」 「だからお前がオデットだ」 「ええ……?」 こんなところへ来てまで白鳥の湖をやらないといけないのか。しかもいつも村人の僕が主役のオデットなんて無理にも程がある。 「あのう……一応これでも僕男なんだけど。あ!わかった、もしかして僕ってここでは女になってるの?」 「なってない。男だ」 胸を触っても平らだ。 「えーと、じゃあジークフリート王子が女なの?」 「そんな訳無いだろう。王子なんだから男だ」 「いや、じゃあなんなんだよ。オデットは普通王女じゃないか」 「私の知ったことではないが、お前の好みに合わせてこの世界は作られてる筈だ。お前が男を好きなんじゃないのか」 「はぁ~!?」 そんなこと思ったことも無いよ! 「資料によるとお前はよく女のフリして踊り狂ってるそうじゃないか」 「何の資料だよ!僕は母親の手伝いで仕方なく女性の振り付けをたまーに踊ってるだけで女のフリして踊り狂ってるわけじゃないよ」 「あー、資料のミスか。女装趣味のダンサーってなってるんだよ。ほら」 タブレットみたいなものの画面を見せられる。たしかにそう書いてある。しかも何だよこの写真、僕半目じゃん……資料作成者の悪意感じる…… 「まぁ、資料を見る限りお前の魂レベルが物凄く低くてどんだけ不細工なんだろうと思ってたが、実際こうして見ると悪くない容姿だ。いけるいける!」 いける、じゃないよ。やりたくないって話だよ。いや、僕がやられるのかなこの場合? 「ねぇ、せめて何とか相手を女の子にしてもらえないの?」 「そんなの無理に決まってるだろう。ホラ、諦めて腹を出せ」 「お腹?なんで?」 「良いから、服を持ち上げろ」 とりあえず言う通りにした。 するとドンと突き飛ばされてテーブルの上に押し倒された。 「痛っ!何するんだよ」 上品そうな見た目の割に乱暴だなぁ。 悪魔は僕の手をまとめて頭の上で押さえつけると、もう片方の黒くて長い爪をした手で露出したお腹を撫でた。悪魔の手は冷たかった。 「ひゃっ冷たい!くすぐったい!」 そして彼は何か呪文のようなものを唱え始めた。 「あっつ!?」 段々彼の手が熱くなってきて僕は身を捩ったが、頭上で手を押さえつけられているため逃げられない。 「やだ!何?熱いんだけど!」 「どうだ?ちゃんと浮かび上がってきたか?」 悪魔が無遠慮にズボンのウエストをグッと引き下げる。 「わわっ!何するんだよ?」 下の毛が見えそうなくらい引っ張られて焦る。 しかし下腹部に変なインクの跡みたいなものが見えて僕は眉を顰めた。 「え、何この汚れ」 「汚れではない、淫紋だ」 「ええ?あのー、インモンて何?」 悪魔がインモンとやらを指さして言う。 「今この色は黒いな?」 「はい」 「それが、お前の王子様と出会ったらピンク色に変わる」 「へぇ、すごい。どんな仕掛け?」 悪魔は僕の疑問を無視して続ける。 「そして、1週間かけて段々また黒くなる」 「へぇ、そうなんだ」 「全部真っ黒に戻ったらお前の負け。白鳥のままゲームオーバー」 「ええっ!」 僕は下腹部の汚れのような印を手の平でゴシゴシ擦った。落ちない。 「ふん、手で擦っても消えないぞ。愚か者め」 「え~……」 「それが消える条件はただ一つ、愛する王子と結ばれること。体内に精液を注がれて初めてそれが消える。そしてお前は人間に戻ってこの湖から出られるというわけだ」 「そ、そんな!まず王子を愛するのが無理な時点でどうしたら……?」 しかも注がれるって、僕が抱かれる側ってこと?無理だよそんなの! 「健闘を祈る」 バサバサっとまたマントが翻って目の前が真っ暗になった。 気付いたら僕はまた湖の上に浮いていた。白鳥の姿で。 そのとき既に日は落ちた後だった。
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