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2.王子との出会い
雲の隙間から薄っすらと月が見えた。そしてその雲が風に流され、月の光が湖面に差した。
するとその光に照らされた白鳥たちが岸辺に上がって、次々と人間の姿に変身するではないか。
バレエの白鳥の湖だとこれがみんな女なのだが、何故か……全員男だ。
これもあの資料作成ミスのせいなのか?あの資料作成したのって一体どこの誰なんだろう。
僕もまた月光を浴びて悪魔ロットバルトの部屋に行った時のように人間に戻った。
白いゆったりしたシャツに、下は白い半ズボンとソックス、黒い靴という出立だ。白鳥の湖のストーリー的にはジークフリート王子が白鳥の変身をどこかから覗き見しているはずなんだけど……
キョロキョロと辺りを見渡したとき、木陰から背の高い男性が現れた。
お、王子様登場か!?と目を凝らして男性を見る。
「直也……?」
「え?」
何で王子が僕の本名を知ってるんだ?
僕はこの世界ではオデットなはずなんだけど……
「滉一さん!?」
そこに立っていたのはジークフリート王子の衣装を着たバレエダンサー高杉滉一だった。
「は?え?なんでここに!?」
滉一さんは階段の事故では助かったはずだよね!?
「お前こそなんで……目が覚めたのか?もう怪我は何ともないのか?」
「怪我?あ、階段から落ちた時の?」
「ああ。俺を庇ってお前は頭を打って……脳死状態だったんだ。肩や腕も骨折していたはずなのに何故……」
一体どういうこと?滉一さんもこの世界でゲームに参加させられちゃってるの?でも、滉一さんは死んでないはずなのになんでここに?
僕が混乱していると彼が言う。
「待てよ、ああわかった。これは夢か」
「夢?」
「俺の願望か……」
「願望?」
「お前が生きてたら良いのにって考え過ぎて、眠った時夢にお前が無傷で出てきてるんだろう」
夢?そうか。これ、夢なのか。確かに脳死の僕が見てる夢って可能性もあるよね。
ん?でも脳が死んでたら夢は見られないのかな?
晃一さんがこちらに近づいてきて言う。
「顔をよく見せてくれ」
僕は言われた通り彼の方に歩み寄った。
滉一さんは僕の顔を両手で挟みこんでいろんな角度からしげしげと眺めた。
「どこも怪我していない。うん、綺麗なままだ……」
そうしているうちに滉一さんの目に涙が浮かんできた。
「すまなかった。俺のせいで……本当にすまない。まだ若いのに……お前の人生をダメにした」
滉一さんが僕の両肩に手を置いて項垂れると、ぽたぽた涙が溢れた。
ええっ何?急に泣かないでよ!?
僕はどうしたら良いかわからず狼狽えた。
「えーと、泣かないで!あれは事故だったんだし。それにね、まだ僕の人生ダメになってないかも」
「……え?」
「もしかして助かるかもしれないんだ」
「助かるかもって……?」
「悪魔……いや、神様が僕に言ったんだよ。ゲームに勝てたら僕を無傷で生き返らせてくれるって」
晃一さんは訝しげに眉を顰めた。
「ゲーム?なんだそれ、本当か?」
「んー、わかんないけど多分、本当」
彼は目をパチクリさせている。
男らしい顔立ちの人だが、二重の大きい目でそんな表情をされると不思議と可愛く見えた。
「それには滉一さんの協力が必要なんだ」
「俺に出来ることなら勿論何だってする」
「う……うん、ありがとう」
「で?何をすれば良い?」
僕と身も心も愛し合ってください!
ーーーと言えるわけもない。
「あーっと……それがわかるまで一緒にいてほしいんだけど」
「それだけか?」
「はい……とりあえずは」
一応後ろを向いてチラッと下腹部をチェックする。うん、淫紋がピンクに変わってる。滉一さんが僕の王子様で間違いない。いや、”僕の王子様”ってなんだ?
赤の他人でもないし、一緒に時間を過ごすうちにもしかして親しくなってエッチできるかも!
ーーーなんて無理だよな……うん。
知り合いの方がかえって気まずい。
そもそも相手が女性でも1週間でそんなに親しくなれる気がしないんだ。童貞にはハードルが高すぎるゲームだよ。
でも命が掛かってるからギリギリになったら土下座してエッチしてもらうしかない。
いや、でも心から愛し合わないといけないんだっけ?
ていうか1週間で愛し合うとか無理すぎるよ。こう考えると昔話のお姫様と王子様って惚れっぽいよなぁ。
とりあえず僕に惚れてもらうために(?)身の上話でもしよう。もしかして気に入ってもらえる要素があるかもしれない。
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