復カツの儀式

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 撮影や収録がない日、私は必ずある場所に向かう。エステ? フィットネス? 違う。モデルという重荷が外れた時くらい、美容のことなんて忘れていたい。  自宅から徒歩20分。マンション街を抜けて、街道から脇道に入って――すっかり寂れた商店街の真ん中に、その店はある。  看板も暖簾もすっかりボロボロ、辛うじて『中華 味丸』という店名だけが読み取れる。ショーウインドウのガラスも黄色く変色してて、中の食品サンプルもすっかり色あせている。明日にはなくなってるんじゃないかと思わせる、ヨレヨレとした佇まい。  それでいい。それがいい。非の打ちどころがないビジュアルに半ば恍惚としながら、引き戸に手をかける。油を差してない引き戸がキャーッと悲鳴を上げるのも芸術点が高い。  きょう。私はここで、『復カツの儀式』を執り行う。
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