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「丁度いいところに来たわね。ああ、ちょっと待ってて」
「お、おい、そんなこと言ってる場合か!早く逃げねえと、死ぬぞ!いいからこっちに来い!」
「はいはい、相変わらずせっかちな人ね。そこのソファーに座っていいから、寛いで待ってて」
「馬鹿、今の状況がわかってねえのか!敵国の軍から攻撃を受けてるんだぞ、おい!!」
まるで俺の声が届いていないかのように彼女は手を動かしていた。苛立って少女の方に走り寄ると、彼女が急に振り返る。
「はっぴばーすで〜」
まん丸の白いショートケーキが、彼女の手の家に乗っていた。
「誕生日って、とってもめでたい日なんだって、職員の方がおっしゃってたの」
「……今日が、俺の誕生日だというのか?」
「んー?えっと、誕生日って誰にでもあるものなのよね?だから、あなたのことは今日祝ってあげようと思ったの!」
頑張って準備したのよ、と笑う彼女の顔は、花のように可憐だった。"元気が出たかしら"と聞かれて、一瞬息が詰まった。
言いたいことはたくさんある。
こんな時にのんきに料理をするなとか、誕生日はいつでも祝えるものじゃないとか、そもそもお前は現状を把握しているのかとか。
本当に、何も知らない子供だ。俺なんかに必死になっちゃって、馬鹿なやつだ。
でも、なぜだろうか。暖かくて泣きそうだ。
「───お前、本当に」
馬鹿だな、という言葉は音にならなかった。それから何も言葉が見つからなくて、只々時間が過ぎていく。
ガラガラと建物が崩れる音が聞こえているというのに、俺はその場に立ち尽くしていた。
呆然とする俺に、彼女が口を開く。
「誕生日、おめでとう」
ふふっと、可愛らしく少女は笑った。
その時、突然第三者の声が聞こえた。
「おい、カスミ。まだ部屋にいるのか!?早く逃げるぞ!」
大人の男が急に部屋に入ってきた。少女が"お父さん"と呟くのを聞いて、二人が親子であることを知る。
「なんでその男がそこにいるんだ」
俺に気づいた男がこちらを睨んでくる。
「何故その男は手錠を外しているんだ。おい!カスミ、お前まさか、その男を開放したのか?」
問い詰めるように近寄ってくる男に怯えたのか、少女……いや、カスミが俺の服の裾を掴んできた。
「そいつに情が湧いたのか、カスミ。……裏切ったな」
「ち、違うわ」
「おい、そこの男。そこをどけ!命令だ」
ギロリと睨まれた。もちろん命令なんて聞くわけもなくそのまま佇んだ。
「はははっ、こんなに攻撃されてたら、逃げる時間なんて無いかもな。あーあ、俺もここまでか」
キラキラと視界に虹の光がちらついた。宝石の瞳は滑稽に叫ぶ男だって輝いているように見せるのだ。
「俺もお前らも、ここで死ぬんだよ」
近寄ってきた男に腕を引っ張られて、衰弱した体は呆気なく前方に倒れる。
膝をついたまま、力を振り絞って後ろを振り返ると、男はカスミの首を掴んで彼女の体を宙に浮かせていた。
「ああ、でも、そうだな…最後にお前を直接手に掛けて殺してやるのも、悪くない」
キラキラと、虹の光がちらついた。
「ずっとてめえを、こうしてやりたかった。人形のように従順な、気味悪い子供め。ずっとずっと、その感情を映さない瞳に、ムカついてたんだよ!」
虹の光は、強くなっていった。
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