虹色の被検体

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いつまでこうしていればいいのだろう。 石レンガでできた壁を見上げながらそんなことばかり考えている。自らの両手脚に繋がれた鎖を握りしめて、ため息をついた。 いつからこうだっただろうか、と視界のところどころに映る虹色のキラキラを目にしながら少し前のことを思い出す。 25歳の若くて健康な男の身体は、俺が思っても見ないところで価値が存在していたらしい。それに気づいたのは、事が起きた後だった。 戦時中とはいえ、街の治安は比較的良いものだと思っていたのが運の尽きだった。 数ヶ月前、いつものようにカジノで遊びまくって、深夜に一人で帰路についた。夜遅くに家に帰ることは珍しいことじゃなかったし、夜道に揉め事に巻き込まれたとしても男の腕なら何とでもなると慢心していたのだ。 ところがその夜、俺はとある研究所に拉致されてしまった。一気に複数人に囲まれて、何かよくわからない薬を打ち込まれて気を失って、次に目を開けたときは研究室の中だった。 目が覚めたとき、体が嫌に重たくて俺は起き上がることができず部屋の天井を見上げるしかできなかった。 身体がだるくて身じろぎも難しい中、側にいた研究員に話しかけた。どうして俺はここにいるのか、俺は今、どうなっているのか。 その答えは直ぐに返された。 「お前さんは、実験体になるために様々な条件をクリアした、多くの市民の中でも貴重な人物だ。つまり、被検体に選ばれたんだよ」 愕然と、その研究員の話を聞いていた。ショックを受けたというよりは、あまりにも非現実的で実感が無かった。 「そしてお前さんは、数々の被検体の中でも特別な存在……実験薬の適合者だ」 呆然としていると、部屋の隅の鏡が目に入った。鏡を見た瞬間、俺は痛いほど現実を知ることになる。 「な、なんだ、これ」 俺の瞳はダイアモンドのように、虹色の輝きが散りばめられていた。 美しいダイアモンドに価値があるように、俺の瞳も高値が付けられているらしい。俺は実験の成功体として、ここで厳重に管理されることになった。 管理、といっても監禁みたいなものだが。実験はまだ途中段階で、今後も俺はこの研究所に拘束されるらしい。 視界に虹色の光がちらつく。これはダイアモンドの目になった副反応だろう、と研究者に説明された 俺は地上なのか地下なのかわからない牢で暮らすことになった。 手足には枷が繋がれていて、行動範囲は殆ど無い。たまに研究室に連れて行かれてよくわからない検査を受けたりしたが、一日の大半を自室で部屋の壁を見てぼうっと過ごしていた。たまに虹色のキラキラが鬱陶しくて、イライラしていた。 そんな暮らしが数ヶ月は続いて、そして現在に至るというのである。
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