2×××年―― アヤとテツヤ

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2×××年―― アヤとテツヤ

 あらためて見ると、きったない海だなぁ……。  テツヤ・ジョン・スタッドは思わず顔を顰めた。  「イヤな顔しないでよ。これも、私たちが繁栄してきたことの弊害なのよ。(むく)い、ということね」  アヤ・オートンが苦笑しながら声をかけた。  2人して高台に立っている。  環境汚染、自然破壊は極まっていた。望み見る海も空も赤茶けた色に染まり、どこか禍々しさを感じさせる。  「手厳しいな、まわりにも、自分に対しても。アヤらしいよ」  テツヤが苦笑すると、今度はアヤが肩を竦める。そして寂しそうに目を伏せた。  「そうやって考えないと、諦めもつかない……」  「ノア計画には、参加しないのかい?」  「できないよ。私には、お父さんがいる」  「そうか……」  「テツヤは? もちろんするんでしょ? それがいいよ。あなたには、まだ未来がある。テツヤみたいな人は、新しい地球に必要だよ」  「成功するかわからないんだよ?」  「地球に残っても、死を待つだけだよ?」  「でも……」  口籠もるテツヤ。  ノア計画――それは、人間が住めなくなる地球を飛び出し、宇宙ステーションにおいて冷凍睡眠(コールドスリープ)につきながら時を待つというものだ。  環境汚染が取り返しのつかない状況になった、と人類の多くが受け入れたのは10年前だった。そこから科学者達が協力して計算した正確な人類の寿命、つまり人間が生きていられなくなる状態になるまでの期間は、21年と3ヶ月弱。  ということは、約10年後には地球上から人類は消える――。  一瞬で消え去るわけではない。汚染された大気や水の影響で、少しずつ命は失われていくのだろう。  汚染の激しい地域の者達から、あるいは体力や健康面に弱さのある者達から……。
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