2×××年―― アヤとテツヤ

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 「ただいま……」  家に戻ると、アヤは部屋にいるはずの父に声をかけた。  しん、と静まりかえっている。  寝ているのかな?  なるべく物音を立てないように、アヤはキッチンへと向かった。  あっ?   ふと、父愛用のグラスがなくなっていることに気づく。亡くなった母とお揃いの物だ。  お父さん? 不穏な気がする。慌てて父の部屋へかけていくアヤ。  「おお、アヤ、お帰り」  ノックもせずいきなりドアを開けたアヤを、車いすの父は穏やかな表情で迎え入れた。  目の前にはテーブル。そこに、すでに10年前に亡くなった母の遺影が置かれている。そして母のホログラム映像が浮かびあがっていた。  母の顔も、穏やかだった……。  テーブルにはグラスもあった。そしてその横に、錠剤が一つ……。  「お父さん、まさか?」  険しい表情になるアヤ。  「決めたよ。私は、これを飲んで、お母さんのところへ行く。アヤは、テツヤ君と一緒にノア計画に参加しなさい。それがいい」  そんな……。  愕然としながら父に寄り添うアヤ。父はその肩に手を当て、優しく撫でた。  ノア計画に参加し2000年後の地球に降り立つ道と、地球に残り汚染や破壊され続ける環境に身を委ねる道、どちらを選ぶかは、基本的に個人で判断することになっている。  決めるのはノア計画開始の3ヶ月前まで。それは、明日だ――。  今のところ、計画に参加する者は当初予想されたより少ない。地球環境に身を委ねて死んでいく道を選んだ者の方が若干多かった。  個人の判断だけでなく、もちろん厳しい線引きもあった。  殺人など重大な犯罪歴のある者はノア計画には参加できない。健康状態も厳重にチェックされ、一定のレベルをクリアできなければ不可となる。年齢制限についてはあらゆる議論が繰り返された。高齢者は不参加にすべきではないかという意見がでたが、結果的に、新しい地球にも様々な年代の人間が必要だろう、ということで制限はしないことになった。  ノア計画に参加せず、地球に残る道を選んだ者、あるいは選ばざるを得なかった者には、一つだけ権利が与えられた。  それは、安楽死する権利、だ――。
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