苺ジャム

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気が付くと、見覚えのあるシミが天井にある。私の部屋だ。頭の中でフル回転に整理する。そうか、小説を読みながら、また妄想に(ふけ)ってしまったのか。さっきの出来事は一体なんだったのかと思うと、冷や汗が首筋に流れた。 そして、気になっていたあの天井のシミは、やはりほんの少し移動をしたように見えた。 パトカーのサイレンが外から聞こえ、人の声が騒然としている。袖口に赤いシミの付いた白いシャツの男が、警察官に手を引かれパトカーに乗り込むところだった。窓から見た光景は、まるでさっきの自分の続きを見ているようであった。 「私じゃなかったんだ。そっか。そうだよな。よかった。焦った……ああ、疲れた」 とにかく、自分ではなかったのだと一安心した瞬間、私の袖口にも赤色のシミのようなものが付いていた。 「えっ、まさか!?」 甘い匂いがしている。今朝食べたパンに付けた苺のジャムだった。 「びっくりした……」 その焦りはあまりにもリアルな状態の錯覚をもたらし、夢と現実の狭間にいるような感覚に浸っているようで、呼吸が少し荒くなった。
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