今は亡き相棒の忘れ形見が夜ごと迫ってくるのだが

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「誰か夢だと言ってくれ――――――――――!!!!」  ハッと目を開ける。一体これで何度目だ。  辺りを見渡すが、誰もいない。ベットサイドのブランデーも、そのまま残っている。  頬をつねる。痛い。  ヴィンセントは「ほう」と、深く息を吐いた。  ああ、よかった、目が覚めたんだ。  やっぱり悪い夢だったんだ。  夢でよかった! 本当に夢でよかった!! 「ねぇ、ヴィニー」 「ギャ――――――――ッ!!」  振りむくと、扉に立つのはナイトドレスのケイトの姿。 「な、なによ急に?! どうしたの」  慌てふためく彼女の手には何やら手紙が握られているが、今はそんな事を気にしている場合ではない。 「どうしたのはこっちのセリフだ! こんな夜中に何の用だ!!」 「うん、あのね、ちょっと相談したい事があって」 「そ、相談?!」  その言葉を聞いただけで、さっきの悪夢が蘇る。 「だ、ダメだダメだ!! 今はそんな気分じゃないのっ、相談事なら明日聞くから!!」 「えー、どうしてぇ」 「どうしても!! 頼むからあっち行け! お休み!!」  ぐずるケイトを締め出して、全力で扉を閉める。 「ねぇ、ヴィニー、ヴィニーったら! ホントに大事な話なの」  ケイトはドンドン扉を叩くが、入れてやる気は微塵もない。扉に体で錠をかけ、諦めるのをひたすらに待つ。 「ふんだ、いいわよもう。ヴィニーのケチ!!」  やがて、そう捨て台詞を残してはケイトどこかに行ってしまった。  そうはいっても、どうせ一つ屋根の下。部屋に鍵などついてはいない。今日はここで寝るしかないと、枕を抱えて扉の前に座り込む。  これでもう、誰も入っては来られまい。 「でも、待てよ。今日はこれでもいいかもしれんが、この先一体どうすりゃいいんだ?」  そうだ、姐さん!  姐さんだったらきっとなんとかしてくれる。  そうと決まれば朝一番に事務所で相談してみよう。  もう悩んでいる暇はない。  早く何とかしなければ。
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