今は亡き相棒の忘れ形見が夜ごと迫ってくるのだが

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「……って、何を言ってるんだ俺は――――――――――!!」  ハッと目を開ける。 「あれ……ゆ、夢……?」  まったく酷い夢もあったものだ。  ベットのサイドボードには、飲みかけのブランデー。溶けた氷が浮かんだそれを、もう一飲みしようかと手を伸ば しかけて、止めた。寝入りの酒があんな夢を見せたのだ。  ――いや、違う。  そうだ、原因は別にある。  そろそろ寝ようと寝室に向かっていたヴィンセントは、廊下に漂う靄に気づいた。火事かと思ったがそうではない。靄 の原因は風呂場にあった。 「まったく、ケイトの奴め!風呂の後は戸を閉めろと何度言ったら……」  なんて愚痴りながら覗きこんだら、見てしまったのだ。ちょうどシャワーを浴び終えた、生まれたままの彼女の姿を。白い湯気 が幸いして、ほとんど何も見えることはなかったのだが。  その後は勿論、そのまま何事もなかったかのように戸を閉めた。ヴィンセントも、ケイトも、終始黙ったままだった。  今考えれば、あれもケイトのハニートラップだったのだろうか。  そうして寝室に戻った彼は、案の定眠る事が出来ずに想定外の深酒をしてしまった、というわけだ。
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