今は亡き相棒の忘れ形見が夜ごと迫ってくるのだが

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 探偵家業に身をやつすヴィンセントには、昔一人の相棒がいた。  ろくでなしの自分と違って、クソがつくほど真面目な男で、仕事面でも私生活でも、反りが合わずにずいぶん衝突したものだ。  水と油のような二人だったが、二人の仲を取り持ってくれたのが、相棒の一人娘のケイトである。  赤茶色の柔らかなくせ毛。愛らしい丸い鼻。くりくりとした大ききな目。ヴィンセントを見つけると、どこまでもふわふわなその手をいっぱいに広げて、嬉しそうにかけよってくる。  小さな、小さな、可愛いケイト。  直前まで言い争いをしていても、潤んだ瞳に見つめれられれば、ヴィンセントも、そして相棒も、苦笑いして肩を組まざるを得なかった。  相棒とその奥方と愛娘は、理想の家族であったと思う。孤児であったヴィンセントには眩しすぎて、いつだってその姿を目を眇めて眺めていた。  あまりにも幸せな家族絵図。  しかし、ヴィンセントがそれを傍で見続けることは叶わなかった。  相棒とその奥方が、幼いケイトを残し、とある事故で亡くなったのだ。
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