今は亡き相棒の忘れ形見が夜ごと迫ってくるのだが

1/22
前へ
/22ページ
次へ
 やけに眠りの浅い夜だった。  暑いでもない。  寒いでもない。  夢路を辿るにはいい夜のはずが、寝付けない。  無理やりにでも眠ろうとギュッと強く目を閉じる。  訪れる暗闇。  でも  瞼の裏に浮かぶのは、水を弾く細い四肢。  湯気に霞んだ白い脚――。 *** 「ねぇ、ヴィニー」  ハッと目を開ける。 「……ケイトか?」  ベッドに横たわっていたヴィンセントは、少しだけ体を起こし、寝入りばなの目を擦りながら白いナイトドレス姿の少女を見上げた。 「どうした、何かあったのか?」  部屋はまだ薄暗い。薄く開いたカーテンの向こう側も漆黒の闇に包まれている。  どうやら朝ではないらしい。 「うん、あのね、ちょっと相談したい事があって」  ひたり、素足の音がする。  つけっぱなしのフロアライトが裸の爪先をぼんやりと照らした。 「相談? こんな時間にか」  まさかまた「結婚して!」なんてくだらない事言いだすんじゃないだろうな。  腕を組みつつ身構える。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加