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パーマーは、バックアップ取得後に起こったことを簡単に説明してくれた。
特殊工作員としてテロリストの拠点に潜り込んだティム・ゴッガーは、ダークウェブ上に存在するデータベースへのアクセスに成功した。いくつかの重要な情報を手に入れた彼は、情報を暗号化して自身の脳内に保存した。
そこまでは良かったのだが、その後トラブルが起こった。スパイ物のセオリー的な展開だ。けれど、さしものティムも007やイーサン・ハントにはなれなかった。逃走劇の末、彼は銃撃を受け地面の染みになった、らしい。
「ティムの頭には昆虫型のロボットが埋め込まれていた。そのロボットが帰還し、状況を掴めたのが三日前のことだ」
パーマーは淡々と説明した。
「ロボットを埋め込んだ? そんな記憶はないけど」
「埋め込みはバックアップ取得後に実施したのだ。君……ティムの同意も得ている。もともと、作戦に関する情報は『君』の記憶には残さない計画だ」
彼の言い分はもっともだ。ティムが殉職した場合、ぼくは年金付きで退役することになっている。民間人となるぼくに、余計な知識を与える必要は無い。
「アグネスは? 妻はどうしてる?」
「今回の経緯はすでに伝えてある。家で待っているはずだ」
待っている……アグネスとロジーが。ぼくは点滴を引き抜き、上掛けをはいだ。
「二人の顔が見たい。家に帰るよ。他に知っておくべきことは?」
「今日のところは何も。経過観察のため、しばらくは毎週検診に来て欲しい。あー、水曜日の十四時に」
「毎週水曜日、十四時ね。ぼくの服はどこだ?」
自分で探そうと一歩踏み出して、その足がよろけた。ぼくは思わずベッドに片手をついて体を支えた。
「気をつけて、歩くのは初めてなんだ。……その足ではね」
パーマーが無表情に言った。
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