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「アグネスはぼくに心を許さない。ぼくが追い出されないのは、ただロジーがぼくを本物の父親だと思ってるからなんだ。バックアッププログラムなんて、クソだ。あんたらは、この事態を予測していなかったのか?」
「その可能性は考慮されていた。リスクはバックアップ取得前に確認したはずだ。君はサインした。忘れたのか?」
診察室のカウチで不満をぶちまけるぼくに、パーマーは顔色一つ変えず指摘する。その記憶は確かにあったので、ぼくは話題を変えた。
「不思議なのは、ぼくが知るはずのない指輪のありかを夢に見たってことだ。指輪を外したのはバックアップを取った後のことなのに。おかしいじゃないか。彼の霊がぼくにささやいたとでも?」
「そんなことはあり得ない」
パーマーはきっぱり否定した。
「断定的なことはいえないが、おそらくは過去の記憶などがそういった夢を作り出し、たまたま指輪のありかを当てたのだろう。前にも、その引き出しを使ったことがあるのでは?」
「ないよ。スプーン用の引き出しだぞ?」
ぼくは鼻を鳴らした。
「そういえば、あんたにはこれまで一度も診てもらったことなかったよな」
「私はカウンセリング担当の医師だから、ネアカの君とは縁が無い。……で、夢について他に気になることは?」
「特に何も」
「では今後、何かあれば教えてくれ。できれば、夢の内容をメモしてくれると助かる」
パーマーはうつむくと、電子カルテに何ごとか入力し始めた。
「ぼくの夢が、そんなに大事か?」
「そういうわけではない。だが、バックアップ起動時に問題があった可能性もある」
彼は咳払いをした。話をごまかそうとするときの癖だ。
「問題だって? おいおい、勘弁してくれよ」
ぼくは文句を言いながら、心の中では首をかしげていた。パーマーの癖? なぜそんなことを知っているんだ?
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