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「同居は、しばらく継続することになった。まだ手探りだけど」
カウチに横たわりながら、ぼくは机の前のパーマーに目をやった。
「そうか。それは良かったな」
「でも、これからどうなるかはわからない。バックアッププログラムがクソだって意見は変わらないぞ」
「その件は上に進言したよ。……それで、君の見た夢のことなんだが」
パーマーはカルテから目を離さない。その実、ぼくの言葉に聞き耳を立てている。バックアップ後のぼくは肉体こそ衰えているかもしれないが、訓練された知能の方はまだまだ有用だ。ここしばらく、そのことを忘れていた。
「戦闘の夢を見たというのは興味深い。もう少し詳しく教えてくれないか。例えば、潜伏中の夢を見たことは?」
「どうだったかな……」
ぼくは眉間にしわを寄せた。思い出そうとしているのは、別のことだ。ぼくは、任務に出発する前にこの男に会っているのかもしれない。一体どういう状況で?
ぼくの視線に気づいたパーマーは片方の眉をあげ、ぼくをちらりと見た。
そのしぐさに、既視感があった。
『これを、君の頭に埋め込む』
そう言って、ぼくを試すように見たのはこの男ではなかったか。手のひらには、一匹の妙な羽虫……昆虫型ロボットだ。
『埋め込む? そいつはウゲー、だな』
『君が任務に失敗した際にはこれが起動し、君の記憶情報を含むRNAとニューロンネットワークのスキャンデータを持って離脱するのだ』
『離脱ってどこから……いや、言わなくていい』
相変わらず軽口をたたくぼく……きみに、パーマーは真顔で説明を続ける。
『あくまでも、万一の事態に備えてのことだ。だが任務を引き受けるからには、拒否権はないぞ』
『わかってるよ、上官命令でなくてもね。これも一種の保険ってわけだ。アグネスたちには生体バックアップ。あんたたちにはこの羽虫。今回はいやに至れり尽くせりだな』
『それだけリスクが高いということだ。君は承知の上だろうが』
『もちろん。でもみんな、保険の支払いをあてにしないで欲しいね。バックアップがいくつあっても、このぼくの命はたった一つだ』
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