あの日の忘れ物

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「明日、もう帰っちゃうのか」 「そうだねー寂しいよ私」 机に転がって、天井の蛍光灯を眺める。 日向も私の隣に転がり、私は照れ、耐えられなくなり起き上がる。 「さっきから転がった起き上がったり…葵どしたと?」 「誰かさんのせいですよー」 私は机からおり、日向の前に立った。 「ねぇ…日向の探してる本教えてよ」 「え…急にどしたと」 「だって私、もう帰っちゃうもん」 「…………そうたいね。明日にはもう、葵はいないとね。 分かった、教えるとよ葵」 葵も椅子からおり、日向は私の手を取り繋いだ。 「え、ちょっと日向…」 「僕が探してる本は…75年前…福岡大空襲の本」 「…それって」 「名前は『あの日の探し物』」 日向は、私の方を見る。そして優しいで言った。 「この本さえ見つかれば、僕はそれでいい」 その本が見つかれば、日向は幸せになれる。 「日向は…が好きなの?」 「嫌いだよ、本当は。見たくない。けど、見なきゃいけない」 「なんで…きっと怖いこと書いてるよ」 「けど、向き合わなきゃいけないんだよ僕は」 「そんな…」 「今日はもう遅いから、葵。明日、早く来れる?」 「うん、帰るのは夕方だから、朝から来れば大丈夫」 「じゃあ、来て。一緒に探してほしい」 「わかった」 帰り道、なぜだか私は、涙が止まらなかった。
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