あの日の忘れ物

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祖父母の家の近くにある小さな図書館。絵本・漫画・歴史書物、小さい割には種類が多様である。夏休みには、勉強をする学生、歴書物を読むお爺さん達、小さな子どもたちがたくさんいるが、今日は誰一人として人がいなかった。何故か図書館司書さんさえも。 なんだか、この図書館すべて私のものだと、勝手に錯覚して私ははしゃいだ。 走り回ったり、絵本をバット床に出し転がりながら見たり。私がこの図書館に訪れるようになって6年。小学校1年生から今の小学校6年生まで、毎年ここには訪れていた。 「今日は私一人だけ〜」 足をふりふりしながら、私は絵本をペラペラとめくっていた、その時。 「君、誰と?」 ふと頭上からそんな声が聞こえた。 顔をあげると、そこには男の子がいた。薄汚れたシャツに短パンに、首まで伸びる髪型をした、そんな男の子だった。 「君も誰?」 「僕は………」 男の子は少し黙った。 「僕は日向(ひなた)」 「日向くんって言うんだ。私は(あおい)だよ。日向くんは何歳?」 「えっと…14歳」 「わぁ私より年上だ!私12歳!」 「そうなんだ」 私一人だけかと思ったけど、もう一人いたんだ。私はなんだか嬉しいような、なんだか悲しいような、そんな感じがしたが、話をするお友達ができたようで嬉しさのほうが増した。 「ねぇ何を読んでるの?」 日向くんは私の見ていた絵本を指さした。 「これ?これはねぇ…」 私達は、蝉の鳴き声なんか耳に入ることなく、楽しくお話をした。 好きな本、好きな色、好きなもの…色んなものを。 「私の祖父母の家が近くになってね〜」 「そうなんだ。毎年来ると?」 「うん、夏休みとか」 「やっぱ福岡は、住んでるとこより暑いと?」 「うーん同じぐらいかな」 時というものは一瞬。大好きな人ができれば。もっと早く過ぎる。 そして、また明日会おうと、約束を交わした。
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