あの日の忘れ物

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「ねぇ…なんで…なんで消えていくの!?」 私がそう言うと、日向は私の顔を見て笑った。 その笑顔は、あのときと同じ、寂しい笑顔だった。 「今まで隠してたけど…僕、幽霊なんだ。75年前の戦争で死んだんだ」 そんな…日向は人間じゃないの。そんな…そんな。 私の目に涙が溜まっていく。そんな私の手を私は静かに握る。 「きっともうすぐ消えていくから、僕のこと話すとね。 僕は75年目の戦争で、全身やけどをした。ただ外で遊んでいただけなのに。 そして逃げたのが、この図書館だったんだ。死んじゃったとけど。 その日から僕は、この図書館にずっといた。けど、僕に気づく人はいなかった。話しかけても反応なし。けど、葵は気づいてくれた。僕を見つけてくれた。」 日向は、私の涙を拭いてくれた。 「なんで僕は、葵に触れられるんだろう、ずっとそう思ってた。けど分かった。僕が葵を好きだからだって、大好きだから触れられるって」 日向は、私を抱きしめる。 私も、日向を抱きしめた。 「葵、こんな僕を見つけてくれてありがとう。 できることなら、葵と同じ時代に生まれたかったけど、けど、葵に出会えただけで十分だ」 少しずつ少しずつ、日向の感触が薄れていく。 「日向…行かないで」 私はかすかな声でそう言う。 日向は、強く私を抱きしめた。 「絶対いつか、会いにいくから。生まれ変わって葵に会いにいくからね」 少しずつ 少しずつ、感触が消えていく。 私は顔を上げ、日向に言った。 「日向っ…大好きだよ。生きてくれてて、ありがとう」 日向は、優しく笑った。 「僕も、好きとよ。好きとよ葵」 そして、日向は消えてしまった。 抱きしめていた本が床に落ちる。 …行って、しまった。 けれど私は知っている。 日向は、まるで向日葵のように、温かかった事____。
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