幸福の星

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「・・・成る程ね、事情は理解したよ。そんな一大事に居合わせられなくて申し訳なかった」 M31ーFFA×××××SQーーふしぎな異空間に聳え立つハッカ塔にて。瞼を閉じてしずかに話を聞いていた神さまが、おごそかに頷く。 「ボクの心で探知したところによると、かれは今、棒渦巻(ぼううずまき)銀河の最北端に位置する、名もなき惑星にいるようだ。・・・バクルス」 どこからともなく現れた黄金の彗星が、神さまのまえに仰々しく膝をついた。からだを纏う山吹色の粒子はゆらゆら踊り、小惑星を包めるくらいの長い尾がぜんまいの葉のように渦巻いている。 「お呼びでしょうか、神さま」 「話は聞いていただろう? デネブを天の川で最も輝く星にしよう。そしていつかーー」神さまは慈しみの眼差しを湛えている。「きみたちが人生を全うするとき、デネブのそばに星の墓を建てることを約束する。  それを、そうだね・・・夏の大三角と名づけよう」 そう言うと、水晶の袴を翻してバクルスの背にふわり飛び乗った。 「残念だけど、きみたちは奥の神殿で休んでいてね。ついてきたい気持ちはわかるけど、疲れすぎている。あそこの中ならちゃんと時間と空間が均一を保っているから」神さまは困ったような笑みを浮かべて、「(とむら)いは任せてほしい。ぜんぶが落ち着いた頃、改めてかれの元に連れていくよ。約束する」 送迎をお願いできるかな、バクルス。もちろんです、しっかり掴まっていてくださいーー黄金の彗星はまるで繭みたいに神さまを包みこむと、まばたきの瞬間に消え去っていた。 「ねえ、もっとスピードは出せないのかい?」  光以上に速く擦れちがう宇宙デブリをかわしながら、神さまは尋ねる。 「失礼を承知で申しますと、神さまはご自分で決められた銀河の規則をお忘れですか? これ以上は速度違反です」  バクルスは強気に主張した。 「ううん、あの規則には欠陥があったね。もどったら“緊急時はその限りではない”という一文を書き足しておこう。・・・それにしてもーー」神さまの頬が思わず緩む。 「あのヘルクレスが、ボクのところにやってきたときは驚いたよ。しかも機織(はたお)りのせがれたちを抱えてね。かれが自分以外のだれかのために行動をするなんて」 「たしかにその点は評価しても構いませんが、神さまに対して無礼にもほどがあります。あいつはいずれ雷でなぶり殺してやりましょう。  棍棒の振り方よりも、口の利き方を学ぶべきなのです」 「そう言ってやらないであげてよ。かれの優しさは不器用なんだから。  そうだ。いずれ、あたらしい棍棒もつくってやらないとね」 やがて神さまは、かつて僅かながらもデネブと過ごした時間を、かけがえのない記憶を辿っていた。気づくと神さまの頬を熱い何かがきらりと流れ、それは銀河中を滑るように駆けていった。
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