魔境画家

1/21
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/21ページ
 「また順位が入れ替わったな。ウチのロドリゴ師匠が主席宮廷画家で、君のところのマリウス師匠が次席だ」ミゲルが言った。  「主席、次席はほぼ半年おきに入れ替わっている。二人の画伯の技量は、ほとんど同等と評されているからな」マレルは言った。  ロドリゴ画伯とマリウス画伯は、ともにレナルド王国の宮廷画家を拝命していて、ミゲルとマレルは、各々の画伯の弟子だ。    両画伯が互いに張り合う関係である以上、二人もライバルであるはずだが、今は弟子の身分なので、絵の道を志す若者同士、親友である。  「二人の画伯を競り合わせ、ライバル心を掻き立てようというのが、王や側近の思惑だろうな」    「ロドリゴ師匠は、主席宮廷画家にけっこうこだわっている。次席より多少は俸給が多いし、宮廷の役人たちに大きな態度を取れるからな」    「そうか……ウチのマリウス師匠は、主席か次席かはあまり気にしてないみたいだけどな。宮廷画家としての仕事は変わらないと言って」    「レナルド王国初の女性の宮廷画家、マリウス画伯らしいよな。いや、性別には関係なく、画家とは本来そうあるべきだと思うよ……ロドリゴ師匠は、没落貴族の家に生まれて、若い頃から苦労してきたらしい。だから、金銭や名声、社会的地位に執着するところがあるんだ」  「ミゲル! 絵具の買い付けは済んだのか?」  ロドリゴ画伯の声が聞こえた。ことさらにとげとげしい調子だった。ロドリゴ画伯は、自分の弟子のミゲルが、マリウスの弟子のマレルと親しいのを良く思っていないようだった。 「これから画材屋に行ってきます!」  ミゲルは、少し慌てた口調でロドリゴ画伯に答えた。マレルに向かって軽く手を挙げると、宮廷の廊下を足早に歩き出した。  「あれ、もうこんな時間か」マレルは、やや気ぜわしそうに時計を見てから、ミゲルとは反対の方向に歩き出した。      
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!