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復活祭
かの者は言った。私の没後ニ千年の後、私はこの世へと復活するだろう。その時代は恐ろしく冷たい時代かも知れない。ただ私がその世にあったとしても私を探すな。私は私個人でその時代を見る。導きを求めるな。己らの強さを信じよ。私は人々を信じている。
そう預言書には書かれてあった。時代を生き抜き戦火を耐え抜いたその預言の言葉。それを信じる者は世界に存在した。
「探すんだ……。必ずいるはずだ……」
その聖人の名前は今や忘れ去られたもの。忘れ去られたというのに、世を儚み聖人の再来を待ち探す者。彼彼女は世界を歩き、日本へと立ち入った。手掛かりは古びた預言書ただ一つ。それもまた現代に使われぬ言葉であり、今や意味すら分からない。そこに描かれた絵の聖人の左頬に変わった模様の痣を見て取れた。それだけが唯一の手掛かり。
「痣だ……。痣を探すんだ……」
細々の生き長らえてきた、世界が知らぬ宗教の祖を探す。それには理由がある。今の世界が冷えているからだ。貧困にあえぐ者。侵略を虎視眈々と狙う者。弱者を省みぬ為政者。互いの足を引っ張り合う人々。その冷たさを打ち破る何かがないかとすがりついたものが名も忘れ去られた聖人だった。口伝えでその聖人は予知能力があったとか、天候を操る力があったとか伝わり、僅かな人々はその奇跡の再来を願ったのだ。
日本の端から端まで辿り歩く。左頬の痣だけを頼りに。
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