3

5/5
前へ
/121ページ
次へ
凪がこちらを振り向く。 私を見るときは、いつも警戒を解かない、挑発的な猫の目。 「あなたさ、うちに住みなよ。」 「えっと…それは大丈夫です」 「行くとこないんでしょ?行くとこある人は大荷物持って公園で熱出さないよ」 「……」 痛いとこついてくる。 何も言えないでいると、凪がふんわり笑った。 「何もしなくていいし、何もいらないよ。何かしたいなら何かしてもらうし。」 「…でも、あなたと秋山係長の邪魔になるでしょ?」 「邪魔はしないで?」 遮るように、凪がわたしの言葉をぴしゃりと切る。 「でも、あなたがいてくれた方が多分、いい。いいんだよ。」 最後は自分自身に語りかけるように、どこも見ないで凪がつぶやく。 その目はとろけていないし猫でもない。 真っ黒な穴が空いたみたいに、空虚だった。
/121ページ

最初のコメントを投稿しよう!

34人が本棚に入れています
本棚に追加