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細いストライプのスーツを着た凪が、テーブルの上の講演会のチラシを薬指に細いゴールドの指輪をはめた手に取ってゲラゲラ笑う。 鼻にはハイブランドのカラーレンズグラスが乗っている。 もう秋山にもらった水色のサングラスはかけていない。 「あの変なサングラスもわかめまんじゅうももう要らないよ」 と、結婚する時にハッキリ言っていた。 本気で驚いていた秋山を思い出してちょっと笑ってしまう。 「『どん底から腕一本で這い上がった女社長』だって。 就活落ちまくりでめそめそ泣いてばっかだったくせにねー。」 「うるさい。まだ出なくていいの?」 と静かに圧をかけると、あー怖い怖いと手をひらひら振って、それでものんびり家を出ていった。 凪は三年の浪人期間を経て公認会計士の試験をパスし、一昨年の春から大手の会計士事務所で働き出した。 秋山はとっくに出かけている。 わたしは食器を片付け、手元のスマートウォッチで予定を再確認した。 今日は札幌で講演会の予定だ。 わたしの凪への想いは、秋山と凪が結婚したことにより完全に潰えたわけではなく、しばらくは燻りの状態が続き、今も燃えカスが残っているような状態だ。
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